第3話 父 九条竜之介

 

 九条菜々花ボクは、お気に入りのミルク色入浴剤を入れたお風呂で疲れた体を温めた。


 そして思い返す……

(あの時助けに入ったら、あの子は怪我で済んだかもしれない。いや、でも自分も殺されてたかもしれない……?)


 ボクの頭の中は、様々な感情がもつれあっていた。小さな胸がチクチクと傷んだ。


(どうしても気になる……とにかくもう一度公園まで行ってみよう)


 ボクは、お風呂から上がって着替えると、ベランダで煙草を吸う九条竜之介パパに、コンビニへ行ってくると伝え、小走りで公園へと向かった。


 公園が近づくにつれ、近隣の住宅に赤いランプが反射しているのが見えた。


 現場に着くと、警察車両や救急車が数台停まっていた。野次馬やじうまをかき分けて、前まで行く。


 そこには黄色いバリケードテープが張り巡らされ、奥にはブルーシート、数名の警官や救急隊員、そして泣き崩れる中年女性がいた。


 たぶん被害者の母親なのだろう。


 ボクは、何にも例えようがない気持ちで、現場を後にした。


 たまに吹く冷たい風が、ボクの温まった身体を冷ましていった。


「ただいま」


 家に帰り着くと、 パパはリビングでテレビを観ていた。


「おかえり。遅かったね?」


「あ、うん……何買おうか悩んじゃって……」


 ボクは、か細い声で答えた。


「アハハッ、小さい頃から菜々花は優柔不断だからね」


 優しく笑いかけるパパから目を逸らし、ボクは自分の部屋へ戻った。

 ベッドに倒れ込むと、大きなため息をひとつ着いた。


 ボクは幼い頃、父 竜之介りゅうのすけのことが嫌いだった。

 仕事の後は飲み歩き、休日はパチンコで家を空ける。自分中心の生活だった。

 しかし、二年前ママが不慮の事故で亡くなると、パパは変わった。


 仕事をしながら家事もこなし、学校行事にも積極的に参加してくれた。ボクはそんな一生懸命なパパを自然と好きになっていた。

 だから、余計な心配を掛けたくなかった。

(とりあえず明日、友達に相談しよう……)

 ボクは浅い眠りについた。



 ボクの住む向ケ丘むかいがおかは小さな町で、20年以上前 高等学校は一校しかなかった。建物の老朽化により、廃校した後は二校に分かれた。『白薔薇しろばら学園高等学校』と、ボクの通う『向ケ丘むかいがおか高等学校』だ。


 向ケ丘高等学校は五年前に改築工事が行なわれ、真新しく綺麗な校舎だ。中でもランチスペースという呼び名の学食は、まるでレストランのようで利用する学生も多い。今日も食欲をそそる匂いが立ち込めている。


 そんなランチスペースのオープンテラスの一角が、ボクの仲間が集まる定番の場所となっていた。


 




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