第51話 彩希姉ぇとの出会い

 寝ぼけまなこの父竜之介りゅうのすけは、味噌汁を飲み干すと、大盛りについだご飯をあっという間に平らげた。


「パパ、もっとよく噛んで食べなきゃ……」


 パパは、指でOKサインをすると、ニヤニヤしながらベランダへと出て行った。

 朝日を浴びながらの一服が、パパの日課である。


 朝の新鮮な空気が室内に吹き込んだ。


「ねぇ、パパ。昨夜の話なんだけど……その、なんていうか……。いや、心配掛けてごめんね」

 

 九条菜々花ボクは、何故パパが犠牲者が女の子だという事を知っていたのか聞けずにいた。

 ……と言うより、聞くのが怖かった。


「菜々花、そういえば先日パパが仕事で学校へ行った時、友達に会ったろ。あの黒髪の綺麗な子が國枝彩希くにえださきちゃんだったよね?……元々にいた」



「え……児童養護施設?彩希姉ぇが?」


(そんな事、聞いたことなかったなぁ)



 ボクは、少し驚いた。

 当時、パパはパチンコばかりで、家の事など関心が無いと思っていたからだ。


「確か……施設内で暴力事件を起こしたらしいよ。その後、國枝くにえださんの養子になっておとなしくなったようだけど。生前ママから聞いた話だから間違いないよ。あ、そろそろパパ仕事行くね、家の事頼んだよ」


 あの彩希姉ぇが暴力事件?

 そんなの何かの間違いでしょ。

 有り得ないよ……。

 それにしても、彩希姉ぇの過去の事初めて知ったなぁ……。



 ボクは、父を見送ると家事に取り掛かった。今日は、また休校になったのだ。

 洗い物をして、洗濯機をまわし、掃除機をかけ、あっという間にお昼をまわっていた。


 一段落ついて、スマホを開いた。

 やはり、関瑠羽太るぅちゃんからの着信は無い。

 もしもの事があったら……と、思うと気が気でなかった。

 しかし、昨夜 マスターの濱田さんと話したように、るぅちゃんを信じて待つしか無いと心に言い聞かせた。




 数年前……


 真夏の炎天下、向ケ丘公園むかいがおかこうえんの木陰のベンチで、彩希さきは読書をしていた。

 周りの子供達は、噴水で水遊びをして涼んでいる。

 そんな中、彩希の元へ二人の子供がやって来た。


「ねえ、お姉さん。オレは関瑠羽太せきるうた。オレ達そこでバドミントンをしてるのだけど、このチビが下手くそで相手にならないんだ。オレの相手してくれないかな?」


はチビじゃないもん!九条菜々花くじょうななかだもん!」


 彩希は、少しだけまごついた。


「九条さん……?」


「そうだよ、パパは竜之介、ママは真美だよ」


「りゅうのすけ……さん?そう、カッコイイ名前ね。私は彩希さき。中学2年生よ。いいわよ、一緒に遊びましょう」


 この日から、3人はいつも一緒だった。

 菜々花も瑠羽太も、優しくて綺麗な彩希の事を大好きになった。

 年齢は、ひとつしか違わないのだが、彩希は大人びていた。

 とても面倒見が良く、いつでも優しかった。





 ずっと一緒に過ごしてきたけど、ボクは彩希姉ぇの過去の事など、全く知らなかった。

 ボクは、母親を亡くし他人ひとよりも不幸だと思っている事があったけど、彩希姉ぇの事を思うと、少しだけ自分が恥ずかしくなった。


 昼食をとり、お風呂掃除を終えると、グループチャットに連絡が来ていた。


『彩希です。お話があるので皆、今から公園に集まれますか?』


 直ぐに皆の既読はつき、集まることになった。



 





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