第24話 二人目の犠牲者
学園祭実行委員会の面々は、ファミレスから出ると各々帰路に着いた。
コンビニエンスストアに寄ったということもあるが、帰ってからあの話をするまでは、気まずいと思ったからだ。
真っ暗な夜空がグズついた。
シトシトと降り出した雨は、次第に強さを増していった。濡れたアスファルトの臭いが鼻につく。
毎日の通学路も、夜の雨で知らない道に思える。どこか異次元にでも迷い込んだのか……と、恐怖すら感じる。
(参ったなぁ、ケチらないでビニール傘買えばよかったかなぁ……)
ずぶ濡れのシャツが肌に張り付いて気持ちが悪い。身体もだいぶ冷えてきた。
桃子は速歩で通り抜けようとした。
その時、ふと廃屋の影に気配を感じた。じっと目を凝らすと、人影のようなものが浮かんできた。
(うっ!ヤバい!)
桃子は、直感的に『逃げなきゃ!』と身体が反応し、雨粒を弾いて走り出した。
黒い人影も走り出す。あっという間に追いつかれると、後頭部に鈍い痛みを覚え、そこからプツリと意識がなくなった。
どれくらい経っただろうか……桃子は、カビ臭さとホコリで
ここは、畳みが敷かれた部屋で、サイドボードには割れた食器がいくつも散らばっていた。ヒビの入った食卓や、破れて綿の飛び出したソファーは、雨漏りでびしょ濡れになっていた。天井からは、雨露を弾く蜘蛛の巣が張っている。
桃子は、すぐに廃屋の中だと認識出来た。
その部屋の入口に、先程の人影が立っている。
ソイツは黒いシルクハットに黒のポンチョ、カラスのクチバシのようなペストマスク……
(Dr.ペスト!……やっぱり
桃子は、雨の冷たさと恐怖で身体が震えた。
「あ、あんた……一体何者なの?……何が目的?」
Dr.ペストは、微動だにせず何も言葉を発さない。
じーっとこちらを見ている。
桃子は、隙を見て逃げようと、ゆっくりと立ち上がろうとした……
カクンッ
「え?何……?」
桃子は目を疑った。両足のアキレス腱がパクパクと口を開いていた。
「い、いやああああっ!!」
不思議と痛みは少ない。だが、両足の感覚が全くなかった。
「嫌だ……なんで……なんでこんな事を……」
ガクガクと怯える桃子に、Dr.ペストは右手に持つナイフをチラつかせ、左手はサムズアップ……Goodサインをしてみせた。
そして……ゆっくりと近づき、床に伏せている桃子の前でしゃがみ込んだ。
「い、嫌……何をするの?……やめて」
桃子は、顔を覆い隠すように、震える手を
Dr.ペストは、一呼吸置くとナイフを持つ右手を素早くスライドさせた。
すると、カビた畳みの上に何かがボトボトと転げ落ちた。
桃子の指の数が……減った。
……桃子は悟った。
終わりだ……
殺されるんだ……
そして、か細い声で
「……痛い。わ、私を殺すのね?……」
Dr.ペストは、大きく首を縦に振り、またGoodサインを陽気にしてみせた。
まるで、この行為を楽しんでいるようにも見えた。
「お、お願い……せめて、最後に……姉貴……
Dr.ペストは、桃子の肩に手を置くと、ゆっくりと首を横に振った。
桃子は、涙で溢れる瞳をそっと閉じた。
(千春……ごめんね。大好きよ)
Dr.ペストは、立ち上がると雨漏りでびしょ濡れのソファーまで戻った。
そして、ナイフを投げ捨てると、ソファーの陰からある物を出した。
かなり重たいのだろう……Dr.ペストは少しよろめいた。
桃子は、目を細めてその様子を伺った。
Dr.ペストが、何やら紐のようなモノを片手で勢いよく2回引いた。
すると、室内にオートバイの様なエンジン音が響き渡り、高速回転するチェーンの音が桃子の耳を
「い、いやぁあああっ!誰か、助けてぇえ!」
桃子の悲鳴とチェーンの音は、虚しくも……激しい雨音にかき消された。
……
……
……
Dr.ペストは、作業を終えるとエンジンを切りソレを投げ捨てた。
代わりにナイフを拾い上げ辺りを見回す。
そして、ソファーの上に立つと、雨漏りの流水で、ナイフにベッタリと付着した赤色を洗い流した。
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