「久しぶりね」ロビーで呼び止められて振り返ると、メガネをかけた髪の長い女の子が立っている。僕は一瞬立ち止まり、「ごめんね」とだけ言ってホールの入口に急いだ。

「知り合いの人」そんな様子を見て洋子さんが僕にきいた。

「高校の同級生です」

 洋子さんは状況を察したようで僕に荷物を預けると、「これだけ楽屋に運んでくれればいいから」と言って僕たちのほうを見ている清香ちゃんに頭を下げた。

「あなたを好きだった方ね」

「あたしにとっても大切なお客様だからちゃんと挨拶してきてね」

 楽屋を出てもう一度ロビーに行ってみると、清香ちゃんはもういなかった。客席ものぞいたけれど見つからない。小さな会場だけど席はかなり埋まっている。ヴァイオリンの児島君も人気あるからな。

 今日、洋子さんは児島君の伴奏には入らない。

「何でここにいるの」僕の後ろから声がした。この声は清香ちゃんじゃない。でも、聞き覚えのある声だった。僕は後ろを振り返る。何でここにいるの。僕が聞き返したいくらいだ。

「清香がね、ユウタ君がいるって」

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