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外は雨が降っている。部屋の中にはショパンのノクターン。
僕がこのCDを買ったあの日からずっと聞き続けている。
僕が智美に告白されたあの日も。
「どうせあたしなんか嫌いなんでしょう」
僕がただ驚いて呆然と立っていたときに、追い打ちをかけるように智美が言った。
「どうして」
不意に出てしまった言葉。智美は走り出して僕の背中から遠ざかっていく。次の日から僕は智美と話ができなくなってしまった。話どころか顔さえ見ることができない。すっかり萎えてしまった心をショパンが癒してくれた。
「僕も好きだよ」
実際にそうだったのに、どうして僕は言えなかったのか。清香ちゃんは一切そのことは知らないようだった。僕にいつものように話しかけてきて、僕も何となく答えてしまう。僕は知らなかったんだ、その間清香ちゃんがずっと智美のいらだった様子を見ていたことを。高校を卒業するとき清香ちゃんが僕に告白をした。
あの時、智美は清香ちゃんのとなりにいたんだ。僕と清香ちゃんは東京の大学に、智美は地元の短大に行くことになっていた。
「ごめん」僕はそう言うしかなかった。
そんな昔のことを考えながら僕は、駅の出口で雨宿りをしていた時、隣にいた女性のことを思い出している。
楽譜を大事そうに抱えていいて、楽譜にはショパンのノクターンの文字が見えた。
その女性はそんな僕をチラリとだけ見て雨の中を歩きはじめた。
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