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「あれはノクターンだよ」

 廊下を歩いていた僕とすれ違ったときに清香ちゃんが僕に教えてくれた。智美と清香ちゃんは仲が良い。心配してくれたのだろうか。おかげで僕はあの曲の名前を知ることができた。学校帰りにCDショップによってショパンのノクターンのCDを買った。家に帰ってそのCDを聞くとすぐに、僕が知りたかった曲の名前がわかった。最初に聞こえてきた曲だから。

 CDの解説を読んで、ノクターンは「夜想曲」と訳されることを知った。夜を想う曲。曲のイメージに合っている。当たり前か。ショパン「夜想曲第一番変ロ短調」がその曲の名前。

「智美も曲の名前までは知らなかったみたい」

「多分ノクターンだろうとは言ってたんだ」

 ショパンのノクターンというとほとんどの人は2番の変ホ長調の曲を思い浮かべるらしい。CDの解説に書いてあった。でも僕は1番のほうが好きだ。

「いいのかい。僕なんかと帰って」

「いいのよ。智美は用事があるみたいだし」

 そう言って清香ちゃんが意味ありげに笑う。そういえば僕はあの人の顔も知らないんだ。知っているのは後姿だけ。

「憧れの年上の人か」

 清香ちゃんは急に立ち止まって遠くを見ている。メガネの先に何が見えるのだろう。

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