雪彦の憂鬱
ギリギリ新幹線の時間に間に合い、一狼さんの姿を捜すと学生達の集団の中で、頭2つ分大きな一狼さんを見付けた。
こんな時は人より高いのは便利だなと思いつつ側に近付いた。
「おお、間に合ったか!」
そのホッとした声を聞いてからワザと遅れると云うことも有りかと考えて少し後悔をした。
「藤本助教授、こんなにメンバーが居るんですか?」
ザッと見ただけでも、十人は下らない。
大人数の学生が集まって静かに発掘など進む訳がない。
一族が果たして我慢してくれるのか。否、そんな甘い考えはしない方が良い。
仕方ない、最初に僕が挨拶に行くしかないだろう。
既に車内は小学生の遠足の様に賑やかだ。
一狼さんまで一緒になって皆とトランプで盛り上がっている。
僕は本日何度めかの溜め息をついたのだった。
やがて車窓からの景色が緑多くなり、僕の故郷が近付いてくるにつれ、嬉しさよりも憂鬱になってきた。
「藤本助教授、そろそろ支度をした方が良いですよ」
すっかりはしゃぎ疲れて寝てた、一狼さんを起こして僕は窓の外を見る。
見慣れた風景は、本来ならばホッとする筈なのに、嫌な予感がしてならない。
(どうか、無事に発掘作業が出来ます様に……)
一族が暮らす山に向かい心の中で祈っていた。
「何だ? 雪彦。随分疲れて居るみたいだな」
人事の様に呑気な一狼さんに、さすがの僕もムッとして返事をした。
「一狼さんも少しは協力してください。発掘をしたければね」
僕が滅多に怒らないから、この台詞は効いたみたいだ。
神妙な顔で「すまんな……」と謝ってきた。
「良いんです。分かってくれれば」
そして遂にと云うか、とうとうと云うか、僕の故郷へと着いたのだった。
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