発掘チームへの勧誘
ギリギリセーフだ。肩で息をついていた僕に、後ろから声が掛けられる。
作り笑いを顔に張り付け、振り向きながら挨拶する。
「おはようございます。藤本助教授」
一日に同じ人物に朝の挨拶をするのは結構白々しいなと思いながら、身長差のために一狼さんを見上げた。
「西園寺君は遺跡発掘チームには加わらんのか? 」
なんでも最近、ニュースに頻繁に流れてる古代文明の遺跡が、日本でも出土したらしい。
それだけだったら僕は、喜んで同行しただろう。
行くのを渋ってる理由はただ、その場所のせいなのだ。
その場所とは――
「君の実家の側だからと言って、誘ってるのではないのだがな」
そう、出土した場所の近くには僕の実家があるのだ。
一狼さんは、僕の家族を知らないから、呑気な事を云えるのだ。如何に一筋縄ではいかないか、僕が一番知っている。
「いえ、遠慮させて頂きます。それに、発掘チームに入りたがってる人は沢山居る訳ですし」
一狼さんの顔色が変わり、さりげなく耳元で囁く様に言った。
「雪彦、お前の一族がおとなしく発掘させてくれるとは、とても思えないんだがね……」
助教授らしく見せるための、伊達眼鏡の奥から黒よりも薄い灰色の瞳が不気味に光る。
これ以上の抵抗は無理と判断した僕は渋々約束する事になった。ある交換条件と引き替えに。
1つ、皆には黙っている事。
2つ、一族をなるべく刺激しない事。
どれも、重要かつ、無事に発掘を進めるのには絶対条件だ。
今朝の夢は、暗示していたのかも……
波乱含みの旅立ちになるのは、間違いはないと思い、背筋に悪感が走るのを感じていた。
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