吸血鬼のお宝は?

 ピーポ―ピーポ―

 とっぷりと日も暮れた夜の東京を、救急車が病院に向かい走り抜ける。

 車内には、ストレッチャーに横たわり、苦しみにもがいて居る患者と付き添いの若い男。

 救急隊員は、懸命に延命措置を施そうとしているが、如何せんミハイルは吸血鬼。

 脈など有るはずも無く救急隊員の顔には、焦りやら、諦めの表情が浮かんでいた。

 赤月総合病院へと救急車は滑る様に入っていく。


「患者の容態は? 君、至急オペ室に連絡を取りたまえ! 」


 まだ、研修医らしき男なのに、不遜な態度で看護婦に命令するが、言われた看護婦は嫌な顔をするどころか、ぽーっと顔を赤らめ、病院の中へと走って行った。


「直ぐに緊急オペをしますが、重度の熱傷なので、命に関わるかも知れません」


「そんな! どうか助けて下さい! 先生……」


 先生と呼ばれて気を良くした、若い研修医は、気合い十分に胸を叩き宣言する。


「私どもに任せて下さい! お兄様は、私が助けます! 」


 そう言って若い研修医は、オペ室へ入って行った。

 私は、その隙に看護婦に近寄り話し掛ける。


「何です? お兄様は、若先生が必ず助けますとも! 」


 それで分かった……病院の跡取り息子だったのか。


「いえ、それは先生の腕を信じていますから。そうでは無くて、『輸血用』血液は何処に有るんです? 」


 怪訝な顔の看護婦をレッドは、ジッと見つめ催眠状態にした。


「コチラに有りますわ、レッドさん……」


 暗示に掛った看護婦の後ろを付いて歩いて行く。


「何型の血液をご入り用なのでしょうか? 」


 看護婦が聞いてきて私は、若い女と言うと、困った顔をした。


「すみませんレッドさん。型ぐらいしか分かりませんの……」


 其れはそうだろう。いちいち、《18歳女》とは、書いて有るわけが無い。


 何でも良いと言って取り合えず私の分も持って来させた。


 オペ室の前に戻って血液を持参したバッグに入れた所で、オペ室から、研修医とその他大勢が飛び出してきた。


「信じられ無い! 脈も無いのに患者は、生きてる! 」


 そう言うと、研修医はバッタリ倒れた。気絶したらしい……

 私は、悠々とオペ室に入り、ミハイルを担ぐと皆に言った。


「死んでるみたいですね、連れて帰ります」


 そう言って病院の外へ出て行った――






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る