私の事情
心地良い睡眠を貪っていた私は、体の上で鳴り響く不快な音で、目を覚ました。
「かんな……分かった。起きるから、ガンガン音を鳴らすのは止めてくれ!!」
柩の中から起き上がり、かんなを軽く睨み付ける。かんなは、別段反省するそぶりなど見せずに、クルクルと表情豊かに変わる瞳で私に言った。
「もう! いつまで寝てるのよ~~今日は同伴する日じゃなかったの?」
その手にはフライパンが握られており、恐らく先程の音はコレで、柩を叩いていたのだろう。まだ、頭の奥でこだまの様に先程の音が残って、立ち上がる時はフラフラしたが、これ以上遅れたら何をされるか分からない。
「かんな、着替えるから先に行っててくれ」
「分かった。みんな待ってるんだからね」
私は、名残惜しげに柩を見つめ、ひとつ溜め息を付くと、皆が待つキッチンへと降りていく。
キッチンには、もう既に皆が揃って夕食を取っていた。
「おはようございます。レッド、今日も遅いですね」
クスッと笑う、この男は抜ける様な白い肌に、折れそうな程、細い体の白髪赤眼の世にも稀な美形の若い男。
「雪彦お前だな。かんなにフライパンを持たせたのは」
「知りませんよ?」
なんてとぼけてるが、コイツが面白がってるのは間違いない。
「お前が遅いのが悪い。かんなが幾ら起こしても起きないと言ってだぞ」
「一狼も知って居たなら、止めてくれたって良いじゃないか」
一狼まで、かんなの暴挙を止めないとは。いつでも皆をまとめてくれるのに。
段々と不機嫌になってゆく私に、かんなが食事は? と聞いてきた。
「要らない。食べたくない。トマトジュースだけでいい!」
いささか、子供じみた返事をする私に、一狼は立ち上がり、私の頭をクシャリと掻き回した。
「何するんだ! これから仕事だって云うのに……」
髪を撫で付けながら、一狼を見上げる。背の高い精悍な顔がニャリと笑いゴメンなと言った。
そう素直に謝られたら、何も云えなくなって照れ隠しにテレビを付けた。
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