若き吸血鬼の憂鬱[完]

プロローグ


夜空に月さえ架らぬ晩――


 誰も。通行人どころか、猫一匹見当たらない寂しい住宅地を、急ぎ足で帰宅の途に着いている女が1人。

(嫌になっちゃう、今日も遅くなっちゃった。この辺、最近チカンが出るのよね。近道したいけど……)

 彼女の住むマンションまでは、近道である公園を抜けたほうが五分ほど早く着く。

 このところ残業続きで疲れ果てていた彼女は、痴漢の事を考えて、少しだけ躊躇するが、バッグの中に防犯ブザーが忍ばせてあるのを思い出し、思いきって公園の中を通る事にした。


 この時、彼女がもし別の道を通っていたとしたら?

 明日も普通に会社へ行き、今日と同じ日常を過ごしただろう。

 数分後、公園の中から、恐怖に怯えた彼女の悲鳴が聴こえ。

 後にまた静寂が訪れたーー




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