番外編 二十歳の誕生日
優の20歳の誕生日は木曜日だった。
待ちわびていたかのように、友里は優に、「誕生日は初めての、お酒を飲みませんか」と優にお誘いをした。
「友里ちゃんもわたしも、金曜日は授業があるけれど、平気?」
友里は特に9時からの2コマが入っていて、専門学生の日々は大変激務だった。
「だからって誕生日当日、何もしないのはつらい!!」
「んん~、じゃあ、いっぽんだけ。これだ!っていうのを持ち寄らない?」
優より、4カ月早く20歳になっているとはいえ、友里もまだお酒をたしなんだことがないため、「これだ」と言い切れるものがないので、優の申し出に首をかしげた。
「限定の、高くて手が出ない地ビールとか、webで見て飲んでみたかったお酒とか。わたし、紅茶のお酒を試してみたいな。すごく度数が低い、3%の」
「ああ!そういうの!!うん、一緒にスーパー行こうよ!」
「ちょっとお高いスーパーに行ってみる?」
優の提案に、友里は手を叩いて喜んだ。
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「お誕生日おめでとうございます!」
9月27日、朝。友里は優に誕生日プレゼントをわたした。
学校へ行く前に、軽いが大きな箱をプレゼントされた優は、にっこりとほほ笑んでそれを受け取る。ワクワクとした様子で優が開くと、黒いパンツに、シンプルな白いシャツが入っていた。
「スカートじゃないなんて、珍しい」
「うん、普段使いが出来るようにと思って。スラックス、スゴイ上手にできたから」
「あ、嬉しい。あれ、すごい大きなポケットが多い」
優が、スマートフォンを入れても形が崩れないシンプルな黒いパンツを探していたこともあり、さっそく試着をしてそれらを喜んだ。鍵を入れても、音が鳴らないよう二重ポケットになっており、誤ってスマホを入れても、被らないようになっている。
ウエストはゴムがなく、モノを入れすぎても落ちていくこともない。それでいて細身に見えるシルエットで、優の女性らしいラインを保っていた。
「荷物の為に、男性用のジーパンを履いても良いけど、ちょっとだぼつくし、腰までが短いものね」
「ね~、優ちゃんは細いから似合っちゃうけど、メンズを着せたくないし。学校行くときによく、鍵とスマホだけ入れて学校にいきたいのにポケットが小さい、とか言ってた気がして。普段使いの機能美って、考えたことなかったから、優ちゃんの誕生日にかこつけて、すごく勉強になって、楽しかったよ」
友里がそう言うと、優ははにかんだ。
「とにかくシルエットの美しさが人生の課題と言っていたのに、わたしの日常の何気ない一言を覚えていて、プレゼントをしてくれたこと、ありがとう、毎年、すごく……考えてくれて、うれしい」
「ううん、こっちこそ、着てくれてありがと」
見つめ合って、触れあうだけのキスをした。
「あ、学校の時間だ、はやくいこ」
「ん」
キスがまだ物足りない顔をした友里だったが、優がプレゼントしたシャツに対して、「上半身の筋肉質ぶりを隠せるようになっててうれしい」と細かな喜びを伝えてくれるため、はしゃいで優の周りを飛び跳ねた。腰の高さを強調するのが恥ずかしいというが、友里は美しさを隠す意味がよくわからず、シャツをズボンにインして、女性らしいシルエットラインを強調させた。一式を身に着けた優が「友里ちゃん、どうですか」と、笑顔で言う。
「ああああ~~~~最高……!はあ、毎日恋しちゃう」
「外見を好きでいてくれるのは、助かるなあ」
「外見もだけど、こういう無茶ぶりに、笑顔で対応してくれる気持ちがすっごい嬉しいの」
「いや今回は普段着だし、全然……でも、無茶ぶりってわかってて、するのだから、友里ちゃんは」
「さすがにこれだけ付き合えば、わかってくるでしょう?」
「それはそう」
帰宅後、スーパーへ行く約束をして、2人は一緒に家を出た。
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1本だけと言ったのに、目についた可愛い缶や、瓶のお酒を買いあさったふたりは、「お料理などもすべて総菜にしちゃおう」と、くすくすと笑いあった。ピザ、それから、ちらし寿司、ほうれん草の胡麻和え、グラタン、駄菓子に、アイスクリーム、目についたものを買ったせいで、統一感がないが、パーティと言えば派手でしっかりと用意されたものばかりだったこともあり、その雑多な感じを楽しんだ。
氷をたっぷりと空のグラスに入れると、テーブルに用意して、エコバックの中に詰められたお酒を、目隠しで一本ずつ取った。
優は、友里が選んだカシスのビール、友里は優が選んだ、紅茶のお酒を取ったので、にっこりとほほ笑んで交換しあった。
「あ、でも、グラスに氷を入れてしまったけど、お腹冷えちゃうかな」
優は友里のグラスに氷を移動して、常温の琥珀色のお酒をグラスに注いだ。紫色のビールは冷えひえだったので、氷はやはり冷凍庫に戻して、「注ぎ方のコツ」をネットで調べてみると、「冷えたグラスにゆっくりと、アワと液体を3:7になるように注ぐ」と書いてあり、はからずも冷えひえになっていたグラスに、注いで、その通りの泡の様子に、ふたりで撮影会をして、友人たちのグループチャットに、その様子を送ったりした。返信が来ている間に泡がヘタレてきたので、慌てて友里は立ち上がった。
「お誕生日&20歳おめでとうございます。優ちゃんが生まれてきてくれて、本当に大地に地球に、銀河に、八百万の神々に、ご両親に、出会いに、感謝しています!!かんぱい!!」
友里が口上を述べて、優とグラスを掲げた。
ぐいぐいと飲んで、「ぷぱ」っと飲み干す友里に、優はまるでCMのようだと感心した。優がちびりと飲む様子に友里はムービーを取りたくなるが、心にとどめておく。お酒の味がして、ううんと唸る優にうっとりした。
「そーだ、優ちゃんは、あったかい紅茶のお酒にしたら?」
「そんなのあるの?」
友里は小さな台所に走ると、暖かい紅茶を淹れ、気になって買ったちょっとお高めの、蜂蜜のブランデーを垂らした。
「ほんとは甘くして、バターいれるんだけど、優ちゃんは甘いの苦手だろうから」
「わあ、ありがとう」
暖かい紅茶を飲んで、優はうっとりした笑顔を友里に贈った。
「いい香り。それにブランデーが甘いから、ちょうどいいよ」
「よかったあ」
しばらくふたりで歓談しながら、お惣菜をつまんで、友里はメインだ!とばかりに、微炭酸の白ワインのコルク栓を、大げさに飛ばして、優のグラスに少しだけ注いだ。イチゴのショートケーキを脇に置いて、ふたりで摘まむ。
陽気にぐびぐびと飲んで、「うふふ」と優に微笑みかけると、自分のお腹を少し撫でて、出てないことを確認する友里。
「このあとえっちするから、この辺でほどほどにしとこ」
「ごふ」
思わず飲んでいた白ワインをむせた優は、白ワインの酸味にやられて痛む鼻を抑えながら友里を見た。
「これ以上お酒飲むと、お腹はぽんぽこだし、ふにゃふにゃになっちゃって、優ちゃんにおまかせっきりになっちゃうもんね」
優はふざけて言う友里を、涙目で見つめた。
「してもいいなら、したいけど」
「ふにゃふにゃのわたしと、したい?」
「……してもいいなら、したい、けど」
優は同じセリフを2回言った。
「じゃあ、もうちょっと飲もう」
友里はニコッと笑って、グラスのお酒をグイっと開けて、「おいしい!」と言うと、すぐにもう一杯飲んだ。優には友里がお酒にとても強いように見えて、ふにゃふにゃにならず、手を出せないのではと思った。
「友里ちゃん」
「まだふにゃふにゃになってないよ」
「わたしが、ふにゃふにゃになりそう」
「ほんと?」
「すき」
「わ、ほんとふにゃふにゃだ」
友里は優を抱きしめるとキスをして、背もたれにしていたベッドに押し倒した。
「お酒の味がする、友里ちゃん」
「初めてだね」
「待っててくれたの?はじめてを、わたしにくれるために?」
いつもよりふわふわと話すようになっている優を感じながら、友里は無言で、それが答えとばかりに、優にキスを何度も繰り返えした。
「わたしがしたいことを、しただけだよ」
友里が言って、ニコリとほほ笑んだ。
「友里ちゃん、わたしもしたい」
優が懇願すると、友里が瞳を閉じて待っているので、優は友里をじっと見つめた。友里が無言でいるので、優はそのまま友里を見つめる。蜂蜜色の瞳をすこしだけ開いて、優の様子をうかがう様に見た瞬間、優は友里をガバリと襲った。
「ちょ、もう、びっくりする」
「友里ちゃんが、余裕で、かわいかったから驚かせたかった」
「まんまと驚いちゃった!」
アハハと笑って、友里が身をかがめると、優の手が伸びてきて、友里は喘ぎ声をあげる。
「あっ、普段より、ちょ、アッか、感じやす……いかもっまって」
友里が震えて、優にしがみ付く。
「そうだね、初めて胸だけで達したのも、お酒を飲んだ時だったし」
「ッな、なにそれ、おぼえてなっあ、っ、アッ優ちゃん、まって」
「待たない。この日を、何年も、待ってたんだから」
「なに?どういうこと……っあん!」
食べて飲んで、準備もせずにそのまま愛し合って、優と友里は、しばらく愛し合って、朝まで抱きしめて眠った。
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友里が起きると、部屋はすっかり綺麗に片付き、友里の9時からの授業の為に、朝食にお弁当、全ての準備が優によって終わっていた。
「ごめん、優ちゃん、やってもらっちゃった、ありがとう」
「ううん、体調は大丈夫?」
「あ~~。うん、ちょっと頭が痛いくらい」
深夜に起き上がって少しお酒を飲んで、また優と愛し合った時間を思い出して、友里はキャミソールに短パン姿の自分の体を抱きしめた。シャワーを浴びて戻ってくると、テーブルの上に朝食が用意されていた。
「二日酔いには、しじみのお味噌汁がいいんだって。さすがにインスタントだけど」
用意されたものを感謝の気持ちで受け取って、友里はお味噌汁をすすった。サラダに、おにぎりも用意されていて、優の甲斐甲斐しさにいつも感動する。
「優ちゃん、一緒に食べるとおいしいね」
「ね」
ニコッと微笑んで、同じ食卓の優を見つめる。この日々がいつまでも続けばいいなと、いつも思う。昨夜の残った総菜などを、摘まみながら、まだたくさん残っている、お酒の缶に目をやった。
「今日も優ちゃんの誕生日会しようね。20年前の今日は、まだふにゃふにゃの優ちゃんがみんなに見守られながら、保育器の中だって、芙美花さん言ってた」
「たんじょび会は1年に1回でしょう?うちの親から何を聞いて……。あ、そうだ、土日に親が、駒井家で誕生日会するっていうから、朝から戻るんだけど、友里ちゃんの予定って」
「わー、わあ、タノシミだなあ、今年はドンナノカナア!」
棒演技で友里に言われて、優は眉をしかめた。
「その顔、もううちの親となにか、サプライズ仕掛けてるんでしょ!?だから、今年のプレゼント服はシンプルな服だったんだね。なんの用意してるの、というか、いつからどこで用意してるの?一緒の家にいるのに」
友里は横を向いて、口笛を吹く真似をするが、あまり音は出てない。
「──肌を出すのかな」
「肌は、出ないよ。でも、優ちゃんは永久脱毛終わっててすっごいキレイじゃない?見せないと、勿体ないよ」
友里は詰められながら、優の肌をなでる。詳細は芙美花に口止めされている優の誕生日会の全容を、頭に思い浮かべた。今年のテーマは、和風モダンで、友里は芙美花から豊富な資金を得て、村瀬の祖母から習い、優に振袖を仕上げていた。
(牡丹の赤も似合っていたけど、白の大柄な芍薬にターコイズブルーと黒地の振袖、きっと似合う、絶対すてき!)
友里は「ふふ」と恋する乙女とは言い難い顔で不遜に笑うと、優がはあとため息をついて、友里にチュっとキスをした。
「愛してる」
「!」
甘い声で囁かれて、追い詰められた友里はうっとりとして優を見上げた。
「楽しみだよ、無理しないでね」
「はひ」
麗しい瞳で見つめられながら、またキスの猛襲をうけて、そのままメロメロと落ちていきそうになったが、ハッと時計を見て、友里は学校へ行くために飛び出した。
学校へ着いた友里は、優から、間に合ったかどうかのメッセージを受け取り、無事に到着した旨を返信した。
【誕生日おめでと、あいしてる】
いっぱいスタンプを付けて、その一文を輝かせると、優からシンプルにお礼が返ってきた。
【あいしてる】
優からの返事をロックをして、キャーとじたばたしていると、友人が入って来て友里に手を振る。
「”毎日誕生日計画”初日、どうだった?」
計画名を言われ、友里がにやりと微笑んで、サムズアップすると、友人は喜んでくれた。友里が最愛の優の誕生を祝う日々は、まだ終わらない。
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