三年生一学期
第160話 3年生
新学期、友里が手掛けた真新しい制服を身に着けた優がなぜか代表のあいさつをするために壇上に上がっていて、友里は訳も分からず拍手をした。新1年生にもさっそくファンが出来ていそうだ。
新学期で、お昼ご飯もなく帰れるが、優と友里が、学校で唯一、一緒に過ごすために死守している、”放課後15分”は開催された。空き教室で、15分ほどお話しするだけだが、登下校も一緒になることが少なく、クラスも別棟に分かれているふたりにとって、それはかけがえのない、学校での思い出作りだった。
「優ちゃん、生徒会役員なの?」
「ほら、送辞を読むために、2人目の副会長になってて。内申の為には、あんまり関係ないかもだけど2学期までだし、いいかなって。受験が楽になるよねえ」
全く知らなかった友里は、優をまじまじと見た。
「優ちゃん、サプライズ嫌いって言うのに、わりと驚かすよね……優ちゃんは色々、考えて行動しているんだねえ、わたしもなにかしなきゃ」
友里は優のことを丸ごと受け入れてしまうので、細々した学校生活のことを根掘り葉掘り聞くことがあまりない。優も口下手なので、友里に、すべて話すことはなく、友里は学校の有名人として、優のことを伝聞で聞くことが多いが、「かっこいい、王子様」で締めくくられる優の噂話を、あまり聞きたくないことや、友里に友達がいないこともあって、ほとんど知らない。優は、逆に友里が話していないこともよく知っているので、友里はたまに謎だなと思うが、深く考えたことが無い。
「じゃあ、放課後15分をしてから、わたしを見送っていた時とかは生徒会のしごとしていたってこと?」
「そう、プリントまとめたり、目安箱の設置をしたり」
「目安箱!!」
「ほとんどが、電気が切れたとか図書館の本が無くなったとか、総務の方々とのお仕事だよ。身長が高いから重宝されちゃった」
「そっか、だから先生からの信頼が厚いのねえ、優ちゃん……」
色々な空き教室で逢瀬を重ねているので、友里は感心した。今日は、視聴覚室で、窓も少なく、分厚いドアに囲まれ、廊下から覗かれることも無い。
思わず大胆に、会話のついでのように口づけをしても、憚られないような気持ちになっている。
「ちゅ」
優の頬に口づけをすると、優が驚いたような顔をしてから友里の唇にキスをした。
「だいたん」
「それは友里ちゃんでしょ?」
優が照れて言うので、友里は声を出して笑った。相変わらず優の膝に座っているので、高岡に知られたら(「お膝に座っておいて、普通って顔してんじゃないわよ」と怒られるかも)と思った。
「あのね優ちゃん、この後、教習所に行くんだけど、一緒に行ってくれない?」
「申し込みするの?いよいよだ、楽しみだね」
「うん!ドキドキしちゃう!!運転上手だったらいいな、原付の時は褒められたんだよ体幹がいい!って。優ちゃんとたくさんドライブしたい!」
「楽しみ。わたしも早く免許、取りたいな」
ニコニコ笑い合って、また口づけをした。会話が途切れるたびに、キスをするような雰囲気になっていて、友里は、ドキドキとして優を見つめる。普通の会話をしているのに、まるで、それを始める前のようだ。
「あのね、あとね──」
友里が、なにか話題が無いかと探している途中で、優が熱を含んだ様子を出してきたので、友里はドキリとして、優の麗しい顔を見つめた。
「もう我慢できない?」
ふざけたように聞いてみたが、優がすこしだけ瞬きをして、こくりと縦に頷く。
「!」
優の舌が口中に無遠慮に入ってきて、友里は喉の奥から声を上げてしまう。優の熱っぽくなる雰囲気がわかるようになってしまった友里はゾクリと体が震えて、すぐに溺れるようになる。
「あ、あ……んっ優ちゃ……っ」
今日は特に、空き教室ではなく視聴覚室は、──防音室なので、(思い切り、狙っていたのかな)と友里は思っていた。学校での暴挙に出てしまうことは、友里はやはり罪悪感を覚えてドキドキと心臓が鳴って、仕方がない。
胸をまさぐられると、ピンポイントに正解を導き出されて、ふるふると震えた。
「優ちゃん、ダメ……っ」
一応の否定はするが、優にすぐに言っているだけのものと見破られてしまう。
「あ、あ……っ」
「前に友里ちゃん、胸だけで達したの覚えてる?」
「う、うそ」
「覚えてないなら、今、してみる?」
「やだ……っ、優ちゃんの言葉攻め、ほんと……えっち!」
「言葉攻めって……っ」
優が真っ赤になる。友里は優の声も好きなので、耳にささやかれる度にその内容よりも優の声に、とろけてしまいそうになる。一度、しながら、なんの関係もない話をずっとしていてほしいようなふざけたことが脳裏に駆け巡る。「昔々ある所に、おじいさんとおばあさんがいました」で始まるおとぎ話でも、(とろけてしまうかもしれない!!)とおもって言ってみたところ、優が真顔で『泣いた赤鬼』を朗読したので、普通に感動して泣いた。
服の上から強く胸を揉みしだかれて、思わず喘ぎ声が上がる。
「あっ、アッ、アッ やっ……っん……う」
友里は揉まれるたびに合わせて上がる高い声に、慌てて唇をおさえた。優が、手を止めて友里をまじまじと見るので、表情を見つめられている気がして、羞恥に震えるが、取り繕った笑顔をすることもできず、だらしなくハアハアと息を荒げて優の胸に擦りついた。
「優ちゃぁん…」
甘えた声が出てしまって、友里は震えた。こんなふうにしてしまったら、誘っていると思われても、仕方がなかった。
「誘ってるの?」
(……優ちゃんのスイッチ、わたしがいれてしまった)
友里は、ハアハアと息を荒げて、ゾクリとしながら、優を見た。やはり学校でというのは気が引けるし、「誘っているわけではない」と優に言って(ここは学校で。多分これはやめようって合図なんだけど)これで終わりにもできるが、優を動かしたのは自分だと思うと、興奮した。
「誘ってるよ、いけない?」
友里が上目遣いに見上げながら、自分が作った優のリボンをほどいた。優は眉を寄せて、より端正な顔立ちになる。キリリとして、麗しく、友里はステージに立つ大女優が、スポットライトを浴びた瞬間のようだと思った。
うっとりとしている間に、スカートの中に手が滑りこんできて、「きゃっ」と高い声を出してしまう。そんな黄色い声が飛び出る自分になっていることに、友里は恥じた。
「や……っ!優ちゃんそれは、……!!」
「友里ちゃん、大好きだよ」
友里は熱を帯びた優によって、何度も喘がされた。
::::::::::::::
”放課後15分”は、1時間ほど経っていて、友里はカラカラの喉と、まだ火照る体を抱きしめて、視聴覚室のカギを開けた。優はいつでも爽やかで、羨ましく見上げてしまう。
「優ちゃんって、ほんとスイッチが入ると、大胆だよね」
手洗いをする優のとなりで、友里は自分も手を洗ったあと水道の水を飲んだ。
「痛くした?」
「ううん、気持ちよかったけど……!」
唇の水滴をぐいと拭きたくなるが、優の所作を見習ってハンカチで唇を拭く友里の言葉に、優がポッと頬を赤らめる。(いつでもどこでも優ちゃんはかわいいんだから……!すき!!)と友里はすこしだけ唇を尖らせた。
「午後から教習所に行かなきゃ」
「そうだね、銀行でお金をおろして、どこかでお昼ごはんでも食べる?」
友里が優の言葉に返事をする前に、おなかが「ぐう」と返事をした。
:::::::::::::
教習所に申し込みに行くと、近くに軽い軽食がある場所を聞く。「ペーパームーンという喫茶店があるのみだ」と紹介を受けて、友里と優は制服姿のまま、デート気分で、ドキドキとしつつ、古めかしくも大人びた喫茶店に入った。レンガ造りの壁に、アイビーの蔦が巻かれている。黒い張り紙には、『下宿募集』や、『お好きな音楽をおかけします』など、金色の文字で書かれていた形跡があるが、色あせている。
ナポリタンにクリームソーダが一番人気だと紹介を受け、フライドポテトが山盛りのBLTサンドも追加して、シェアをするように一品ずつ頼んだ。
奥の席に村瀬と望月がいて、優は露骨に顔をしかめた。
望月が頭を下げるが、村瀬は優に威圧的なので、優も心置きなく嫌な顔が出来る。
「え!友達のお店なんですけど!?すっごい偶然じゃないですか!?」
村瀬のテリトリーだったと気づいた優は、調べが足りなかったかなと反省した。しかしすべての友人関係を探れるほど、村瀬の友人は少なくなかったので、諦めるが、隣に座ることは許していないのに、座られてしまう。
「友里さんの顔が見られるなんて、ラッキーだな」
「はあ、なるほど……」
友里はまたもや恋心に感心する。断られても、顔だけ見たいという気持ちは「なるほど」以外になかった。
「あれ?」
優はさらに村瀬の向こう側に、見知った顔を見つけて、声を上げた。吹奏楽部の重義だ。
「もういいよ!さよなら!!」
大きな声がして、バシャっと重義に水がかけられた。
立ち上がった恋人は、明るい髪色のボブスタイルをハーフアップしていて、白いジャケットにグレーのパンツスタイル。私立
「まって!」
立ち上がって駆けていこうとする重義を、彼はボディブローして、うずくまっている間にペパームーンから立ち去ってしまった。
「重義」
起き上がった重義は、「え!駒井じゃん!?なんで……」と言いかけて、女子達に囲まれていたことに気付くと深いため息をついた。
「優等生が、学校から遠くの喫茶店に、来るなよ」
「教習所に近いんだから、隠れるとしては、あれじゃないか?」
優のもっともな意見に、重義はため息をついた。
「水かけられるの初めて見た!よっぽどの事したんだな!?」
マスターが辺りを拭いているとなりで、モップを床にかける村瀬が、うきうきと重義に言っている。村瀬の傷に、塩をふりかけるような笑顔だ。
「水をかけるってことは、目を覚ませってことでしょ?お門違いなこといったんじゃない?」
望月はその塩を丹念に刷り込むような発言だ。優と友里は、四つん這いになっている重義を見つめた。
「駒井、どうしたらいいとおもう?」
「……追いかけるべきだと思うけど……もう遅いかな?」
重義は、慌ててスマートフォンを出す。メッセージが届いていて、『追いかけてきたらコロス』と書いてあった。
「でも追いかけてきてくれたら、わたしなら、すごい嬉しい」
友里もそう言うので、重義はペーパームーンから飛び出ていった。優が、重義たちの分を立て替えておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます