第150話 節度を守って楽しく
残された優は、酔った友里をじっと見た。確かに頬は赤くなっていて……いつも、優がたくさん触って撫でてお誘いして、ようやくなってくれる状況と酷似していて、ごくりと喉を鳴らした。(未成年の飲酒は、絶対にいけないのに)ため息をついて、自分も飲んでしまったテーブルの上のグラスを、忌々しく見つめてから、友里を自分の肩から引きはがそうとした。
「ちょっと酔いをさまそうね」
お水を取りに立ち上がろうとしても、友里が優から離れようとしないので、優は友里をお姫様抱っこのように抱きかかえて、立ち上がった。友里はおとなしく、優の胸におさまって、首に腕を回し、むにゃむにゃと優の耳に何かささやいている。片手で友里を支えながら、お水を汲んで、また椅子に戻ってくると、友里に飲まそうとするが、友里は横を向いて、くすくすと笑う。優は友里の声に弱く、吐息にも弱い。総じて耳が弱点なので、友里を引き離そうとしたが、友里はいつもよりも強い力で離れようとしなかった。
「のませて」
命令のような口調に、どきりとする。優は、つまり『口移しで』と瞳を閉じてキス待ち顔の友里に、心臓が震えた。普段から淑女扱いしている友里は当然、優がそんなことをしないとわかっている。
「友里ちゃん、……お酒、飲めるようになっても、やめておこう」
「優ちゃんとお酒飲むの楽しみなのになあ」
優に断られたことを大げさに悲観したふりをして、ぎゅうと首に抱き着いて、吐息交じりに優の耳にささやきかける。
「だいすき」
ついでみたいに言うが、優はぞくりと体が震えた。これはもう、条件反射だ。パブロフの犬のように、体が熱くなって、『その時』のような錯覚を覚える。いつも友里が、優の弱いところを攻めながら、「大好き」と囁くせいだ。
「友里ちゃん、人様のお家だよ」
優は諦めて、お水のコップをテーブルへ置いた。友里は、優のお膝で自由に優の胸の当たりを指先でツンツンと押している。
「だってかわいいんだもん。今日のコーデはジーンズに、白いシャツ♡ここのタックが、春っぽくてとってもかわいい。よそいきの優ちゃんも好き♡ねえ、──なんで寂しそうに笑うの?」
ふわふわと胸を押し当てて優の背中を撫でて弄ぶ友里の不安を含んだ言葉は、優にはほとんど聞こえてなかった。ここが自宅だったら当然、(とっくに押し倒している)と思ったほど、耳の奥が震えていた。理性を失った友里を、抱き潰して、味わってみたいと思った。まるで水に濡れた綿菓子のように、理性がサラサラと溶けていきそうだった。
「ん」
一瞬の理性のぐらつきを悟られて、優は友里に唇を奪われた。小さな舌がチロチロと優の上唇の中を探る。チュっと何度かリップ音を立てて、キスを繰り返す。
「んふふ、油断したな、優ちゃん」
唇をまだ優につけたまま、友里に微笑まれて、優はくわんと柔らかい鞭のようなものに叩かれたように、視界が揺れた。あっという間に友里に酔ったようになってしまうのは、いつも通りだが、ここは柏崎写真館で、自宅ではないと脳に叩きこんでいるのに、こんなに理性が揺さぶられるなんて。(わたし、お酒はそんなに強くないのかもしれない)気を付けようと思った。
「友里ちゃん、だめ」
「お付き合いしてるのは、みんな知ってるんだよ?ダイジョブだよ。好きって言ってくれたら、離してあげる」
「だからって、節度があるでしょ……。好きだよ」
「離してもらいたいの?やだ~」
友里は泣きまねで、優にしがみ付いた。首筋に、ちゅっちゅとリップ音を立ててキスをしている。
「友里ちゃん……!」
夢の中とでも思ってるのか、いつもより少しだけわがままで、かわいい友里に翻弄されて優は困ってしまう。(友里はこんな夢を普段みているのか?)と思って少しだけ嬉しい自分もいて、優は著しい知能の下がりぶりに戸惑う。
「ちゅ」
すこしだけ強い痛みが走って、優は顔をしかめた。
「色がついちゃった…」
キスマークを付けられたことに気付いて、優は目を細めた。ぷつりと、なにかが切れ、なにかのスイッチが入った音がしたようだった。
「友里ちゃん、わたしのタガを外そうとしているの?」
「ううん、可愛いがってるだけ」
「じゃあ、あくまでわたしが、我慢してることが前提なのかな?」
「??優ちゃんに、なにも我慢なんて、させたくないよ?ユウチャンカワイイ」
優の言葉に、友里は子どものように微笑んで頭を撫でて鳴く。(絶対、理解していない)優は呆れたように溜息を吐くと、くるりとお膝に座る友里を横抱きにして、水を口に含むと、唇を奪った。
「んう」
突然、深く奪われて、友里は怯んだ。首の後ろをしっかりとホールドされて、逃げることが出来ない。湿った音を上げて、友里が水をのみほすと、舌が友里の口中で左右にゆっくりと動く。
「あん……う」
甘い喘ぎ声をあげて、友里が当たり前のように応える。優は、支えていないほうの片腕で友里の胸の先端をまさぐると、そこがすでに硬くなっていて、ゾクリとした。
「優ちゃんも、興奮、してるの?」
優を覗き込むように、友里の濃い蜂蜜色の瞳が性的な波を帯びてくるりと光った。優の胸も、友里がそっと触っている。
「ん」
優が喉の奥で、声を出すと、友里はニコリとほほ笑む。優は、友里の薄手のカットソーの上から、強引に下着の中の胸を触った。
「あっ……ん!優ちゃん……」
ぐいぐいと押されて、友里は悶えた。しばらく優が触る早さに合わせて「あ」と声を上げていたが、呼吸が荒っぽくなってくると、体を逃がして優に背中を向けた。優はそれを追いかけるように、背中から覆いかぶさって、両手で胸をまさぐる。友里は、瞳を閉じて、体を屈ませて、にげるが、優は大きな手で友里の先端を指の間に挟むと、不規則にもみしだく。
「はげし……っ」
「ごめん、逃がしてあげられない」
「え、えう?あっあん…………!」
友里は多分、優の名前を呼んだようだが、形を成さず、自分の唇を手で押さえている。優は、何度触っても初めて触ったかのように、友里の柔らかなの胸の感触を楽しみながら、首筋の骨にそわせて口づけを落とすと、友里が喘ぎ声と一緒に息を荒げた。瞳を閉じたまま小刻みに震えて、ビクリと大きく体を震わせた。
「え?」
「あっ……あ……」
胸を上下させて、2度ほどびくついて、友里はそのまま、優にぐったりと体を預けて、眠ってしまった。
「え、友里ちゃん……?うそでしょう?」
優はごくりと喉を鳴らした。こんな、少しの間、触ったぐらいで、友里が達してしまったのは初めてで、(お酒の力……こわい!)とあらためて思った。体を起こして、汗をかいている友里の額の髪をそっと撫でて、赤ちゃんのように横抱きにすると、本当に眠っているのか、まつげにそっと指先で触れてみた。瞼がピクリと震えた。
「かわいい」
優がつぶやくと、友里が寝返りを打つように「むにゃ」と言って優の鎖骨辺りに顔をうずめた。優は少しだけビクっとして、この場所のことを思い出し、ざあっと羞恥が戻ってきた。──ここは、柏崎家の台所。日差しのあたたかな、午後14時。興奮して、すっかり忘れていた。気を付けなければと思った。
友里の服はかろうじて、脱がしてはいないが、何度触っても毎回、(柔らかい)と感動してしまう友里の胸を、いやらしい気持ち1割ほどにおさめて、友里の下着の中にもどした。
欲求不満になるほど、していないわけではないのに、友里のお誘いが本当に上手で、優は、あっさりとそれに乗ってしまう自分を恥じる。
こんなふうになってしまうのは、友里が好きだからに他ならないが、さすがに、外では理性を保っていたいと思った。台所の脇に置いてあったチューハイの缶に「節度を守って、楽しい時間を」と書いてあって、本当にその通りだと思った。
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ヒナはジンジャーエールにお酒を仕込んだキヨカを、怒って、見ていた真帆と大志にも同じように、𠮟りつける。
写真館で使うホワイトボードに「飲酒強要罪」など書いて正座させてみたが、大人たちは、それでも楽しそうだったので、呆れる。ヒナは優に謝りに行こうと思ったが、台所で2人がどんな様子になっているか少し怖くて、戻るのを躊躇した。
「ごめん、だいじょうぶ?」
廊下から、台所がかろうじて見えない位置から、優に声をかける。
「あ!え、ッと、大丈夫!!」
優の動揺した声がして、やはり声をかけてから入って正解だと思ったヒナは、そろりと足を踏み入れた。
優の頬は紅潮していたが、友里は優の胸ですっかり眠っていた。
「……だいじょうぶ?」
もういちど優に問いかけると、優はこくりと縦に頷く。
椅子に座ったまま、動けなくなっている優がなにかされたような感じがして、ヒナは優をまじまじと見てしまう。首筋に、大きなキスマークを見つけてしまって、目をそらした。
「えーと、お疲れ様です」
「……いわないで」
恥ずかしそうに、優がしかめっ面をするので、ヒナは思わず吹き出した。
「ッと、ごめん、笑っている場合じゃないよね。急アルとかは平気そう?」
急性アルコール中毒による昏睡ではないかと心配するが、友里の普段の様子を知っている優が、眠っているだけだと太鼓判を押した。
「よかったぁ。高岡ちゃんも、ゆっくり飲んで、眠ったみたい。ごくごく飲むような子たちじゃなくて、ほんとよかった」
ヒナは客室に布団をひいたから、優に友里を運んでもらうようお願いする。優は「逆にヒナさんにお願いしようとしていたところだ」と言って、お姫様抱っこでそちらへ向かい、友里を先に運ばれていた高岡の隣に眠らせると、一段落というため息をついた。
「どうしよう、ヒナさん、わたしこれから、予備校へ行く予定があるんだ」
「休めない……よね」
17時から20時までの予定を優がヒナに告げると、まだ時間は14時だったが、それなら、柏崎写真館から、歩いて行ける予備校が終わってから、戻ってきて、今夜は泊まったらどうかとヒナは提案した。
「悪いよ」
「でも友里も高岡ちゃんも、このまま眠って、起きて、20時過ぎに電車に乗って帰るの、風邪をひかせそうだし」
ヒナの意見に、頷いて、さらに高岡のご両親に、お酒を飲んだことを悟られるのも悪手な気がして、優はヒナに2人のことを頼んだ。ふわふわな友里を残していくことに、優が不安を覚えるかと思って、ヒナはことさらに「客間には近づかないから!」と告げた。
優が、天使のような笑顔で笑う。
「信用してるよ」
そう言われて、ヒナはホッとした。優はまだ、時間があるため、自宅に戻って、友里の分の着替えなども取ってくることを約束して、一度解散した。
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