番外編⑧ プリンの日
大粒の涙がポタリポタリと、真白の掛け布団に、桃色の頬から落ちる。小学4年生の友里は、親友で幼馴染みの優が大きな黒目がちの瞳から落ちる涙を見つめて、うっとりするが、さすがにあまり泣かせるのも良くないと思い出し、話しかけてみた。
「ねえ優ちゃん、今日がなんの日か、知ってる?」
「友里ちゃんのお誕生日。お熱だして、ごめんなさい」
またポロポロと泣くので、友里は、大袈裟に大きな声を出して、ジェスチャーをくわえながら、プリンを差し出した。
「今日はね、プリンの日!」
プルン。優の顔ほどもあるプリンが差し出されて、優は戸惑った。お布団で、プリンを食べていいのかしら?と言う顔をしている。
「ニッコリのごろ合わせで25日なんだって!プリンを食べると、みんな笑顔になっちゃうから!」
「ええ……?」
「ねえ美味しい?甘い?笑顔になっちゃう?」
「まだ食べてないよ」
優がおろおろとしていると、友里は、ふにゃりと微笑む。
「だから、もう泣かないで」
ふわりと頬に友里がそっと自分の頬をあてる。優は、誕生日の友里への申し訳なさや、様々な気持ちを全て許された気がして、友里の笑顔につられてつい、微笑んでしまう。
(笑った!)と言う顔で、八重歯をみせて友里は、にこりと微笑んだ。
優の脳裏に、「人形」だの「変な顔」だのと囃し立てる子供たちの姿が写る。
「…どうして友里ちゃんは、わたしにこんなに、優しくしてくれるの?」
思わず、問いかけてしまう。病弱で、小さくて、弱虫な優と、良く言えば、元気ではつらつとしていて、わるく言えば無鉄砲な友里では、友里がつまらないのではないかと、優は思っていた。
「かわいいから」
優の布団にうっとりと頬杖を付きながら、友里がそう言うので優は思わず真っ赤になって(熱がまたぶり返したのかしら)と思った。かわいいのは、友里のほうだと思った。
「プリン、はんぶんこする?」
「えっいいの?!天使!!!」
友里は笑顔で立ち上がって、プリンを眺めると、大きく万歳をして、優に覆い被さった。優はビックリしたが、日向の香りがして、うっとりしてしまう。
「優ちゃんだいすき♡」
抱かれながら、優が小さな声で「わたしも、友里ちゃんがだいすき」と言うと、キャーといいながら友里は、ぎゅうぎゅうとさらに抱き締めてくれた。
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(あれからしばらくは、泣いてるといつもプリンを持ってきてくれたっけ。あのときの半分このプリンは、いままで食べたどのプリンより美味しかったな)
優は思って、紅茶を一口のんだ。友里と、駒井家で3時のお茶をしている。友里は、プリンを大事そうに見つめていた。「いいの?」と言うが、「友里ちゃんの分だよ」と言う。
「ねえ優ちゃん、そー言えば、わたしの誕生日の5月25日ってプリンの日でうれしかったけど、本当は毎月25日がプリンの日なんだって」
プリンを眺めながら友里に言われて、優は「そうなんだ?」と相づちを打った。
「毎月にっこり出来る日があるなんて、罪作りだねえ、乙女の敵だね」
いいながら、嬉しそうにプリンを掬う。
「優ちゃん、はんぶんこする?」
聞かれて、優は「いいの?」と聞いてから友里の唇を奪った。友里は、みるみる赤くなっていって、優を凝視する。
「優ちゃん最近、そう言うことする」
「ハハ」
友里が優の予想よりずっと照れるので、優も楽しくなっている節がある。友里の不意の顔をみたいのかもしれない。優にとって、友里は、いつでも笑顔の源だ。
「──もう泣いてないよ」
優が意味を込めて、そう言うと、友里は照れながらも、にこりとして、優のキスに応えた。
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