第121話 心に灯がともる
「深夜だけど、良いかな」と言いながら、優はバレンタインチョコレートをプレゼントした。甘い香りが好きだと聞いたため、甘い香りがするカカオを選んだ。友里はひとしきり喜んで、いい香りと言いながら箱の香りを嗅いでいる。ダイエット中と聞いていたため、4つだけ入っている小さな箱だ。
「ひとつたべてみて」
優のお願いに、友里は宝箱を開けるようにそっとチョコレートの箱を開くと、その中から1つ、自分の口に入れた。
「美味しい!」
友里の瞳が潤んで、ぱちぱちと瞬きを増やした。優とチョコを交互に見て、モグモグと味わってから、口を開いた。友里は深呼吸して、チョコレートの味がすこしだけ甘く変化したことを知った。友里の好きな香りがして、チョコレートにも色々種類があること、ダイエットへの気遣い、それらすべてを抱きしめて、じたばたとして優への愛を伝える。
「優ちゃんがたくさんわたしのことを考えて選んでくれて、嬉しい…!」
喜んでもらえてホッとしていると、友里が名を呼んで、優に口づけをする。淡くチョコが甘く変化して香った。
「すごいいい香りになった。これって、キス用?」
「!」
友里の言葉に、優は赤くなる。優の想像の範疇を越えて、思いがけない言葉を貰うたび、友里の笑顔を見るたびに、優の心に熱い何かが宿る気がした。
「待って、これだけじゃなくて…」
優は小さな小箱を友里の手のひらに置いた。友里が驚いて、小箱を開けると、か細いチェーンに一体化された雫型の先にエメラルドの花の宝石が付いた、ピンクゴールドのネックレスが入っていた。
「かわいい!ありがとう!!」
友里が目をキラキラと輝かせた後、ソワソワッとして高そうなプレゼントを丁寧にしまいなおす。優はそれを奪って、箱を開けて、ネックレスを手に取った。
「まだ、バイトはじまってないから、友里ちゃんが気にするような高いものじゃないよ、つけてみて?」
「ちがうの、嬉しいんだけど、大人っぽすぎて…似合うかな」
不安がる友里を前から抱きすくめるようにして、慣れた手つきでネックレスを付けると、友里の鎖骨までの流れに沿って、きらりと胸元に光が躍った。
「プリンセスって言うんだって、この長さ」
「初めて知った!じゃあ優ちゃんのモノだ」
そわそわと心もとない様子の友里が、ネックレスを触りながら言う。優は、確かにつけてみると大人っぽくなる友里に、ドキドキとした。
「友里ちゃんのものだよ、すごく似合う」
服よりも、ネックレスの意味を知られたほうが、優は緊張する。可愛いと思ったから友里へのプレゼントとして決めただけなのだが、「恋人へのネックレスは”独占したい”と、思っている表れ」というネット記事を見て、深層心理はおそろしいと思っていた。
彼女を好きなだけでいいと思っていた自分には、とっくに戻れなくなっている。
「なにも聞かないの?」
優は、先ほど駒井家で「踏み込んでもいい」と言ったのに友里がなにも言ってこないことを不安に思っていた。きっと聞かれると思っていた過去を思い出して、整理していた。
「……優ちゃんが隠してること?」
伏目がちに自分を見つめる友里が急に大人びた気がして、優はクラリと眩暈がした。とくとくと心臓の音が聞こえた。友里が胸に寄り掛かってきて、心音を聞かれた気がして言葉が喉に詰まる。
「聞いても、聞かなくても、大好きだから、優ちゃんが話したいなら聞くよ」
そう言って優を見上げて笑う姿は、いつもの無邪気な様子で、優に関心が無いのかそれとも全て知っていて、優からの懺悔を待っているのか、優には測りかねた。
友里の見せてくれているすべてが、優が思っている通りなら、本心から優が好きだと今この瞬間は思っていて、本当に何を聞いても、優を愛する気持ちなのだろうと思った。
「……前に付き合った女の人がいたよ」
「うん」
「その人と、たくさん、したよ」
「そうだよね、優ちゃん上手だもんね」
友里は優に目を合わせないまま、明るい大きな声で答えつつ、優の胸に顔をうずめている。何を考えているのか、優は不安になって、友里の頭部に口づけをした。
「バレンタインデートなのに、こんなこと聞かせてごめんね」
ふるふると胸で首を横に振られて、優はこういう時どうしたらいいのか全く思いつかなかった。友里を長年愛しているせいで寄り道をしたと説明しても、相手の女性と利害が一致したせいだと言っても、友里に嫌われる気がして、まさかこんなふうに、友里と恋人になれると思ってもみなかった昔の自分に、胃が苦しめられる。
無邪気な微笑みで友里がパッと顔を上げて、触れるだけのキスをチュっとしてきた。花のような、友里の香りがふわっと香って、優は何度でも緊張してしまう。
「高岡ちゃんがね、優ちゃんは慣れてるんだから、そういうことも想像しておくのよ!って言ってくれてたから、大丈夫」
「……また高岡ちゃんか」
唸るように、友里の友達の名前を何度呼ぶのか優にはわからなかった。2人がどんな話をしているのか、恋人にはできない話をしている事がすこし羨ましく──優は、しかし、あのまま幼馴染だったら、友里の恋人の話を聞いたり、応援したり励ましたりしたのかと気付いて、あがってくるものを飲み込んだ。
「今の優ちゃんが、わたしを好きなら、なんでもいいよ」
「……っ」
美しく凛とした笑顔の友里を見た優は、急激な独占欲に駆られて、彼女を抱きすくめた。戸惑ったように声を上げているが、構わず口づけをした。長い長い口付けの間に友里は、「あっ優ちゃん、せっかちさんだ、まだデートは、はじまったばっかだよ」と優の体を軽く押したりしたが、照れてふざける友里の癖が愛おしくて、多少の憎らしさが沸き上がってきて、優はすこし乱暴な気持ちになった。
::::::
友里はくすくすと笑って、冗談を言って優を抱きしめたりしていたが、服のチャックやボタンを外され、あっという間に下着のホックを外されて、中身をまさぐられると、さすがに始まっていることを知った。
友里は今着替えたばかりなのに、裸よりも裸のような気がして心もとない気持ちになり、体から浮き上がった、優のための下着が寒さで硬くなった先端に擦れて、ビクリとする。
「まって、優ちゃん……だって、寒いし、エアコンの温度」
「すぐ温まるよ」
どさりと、ベッドに倒されて、太ももをまさぐられながら、下もあっという間にはぎとられてしまった。友里は上着もスカートも着ているのに、無防備な状態にされて、身を縮める。布団を捲り、友里を包むようにふたりで友里のシングルベッドにおさまった。さらりと、プレゼントされたネックレスのトップが首元へ流れる。
「優ちゃん、どうしたの…?あの…」
少し怖くなり、友里は、優の声が聴きたくなる。名前をささやかれて、ホッとしてまたふざけたような声で優の肩越しに声をかけた。
「ねえ、急で、えっちすぎるんだけど…」
「友里ちゃん」
早くしたくて仕方がなかったような、焦るような、指が、そこにあてがわれて、友里は戸惑うが、すでに湿った状態だった為、より恥ずかしがった。はじめてしたときから、濡れないことがないので、よほど相性がいいとか、ネットの情報で聞き齧った下品な話などをするが、優は友里の体をまさぐることをやめてくれなかった。次第に、友里も真剣に呼吸だけになってしまう。中に指が入ることはないが、表面を撫でられて友里は震える。胸を左手で、鎖骨を舌で弄ばれ、身をよじる。
「優ちゃん…!」
言いたいことがたくさんある気がするのに、すぐに甘い声になってしまうことに友里は羞恥を覚えながら、片手の平で目の辺りを押さえている。
「なあに」
低音で優が、友里の気持ちを聞いてくれるという態度を示してくれたように思うが、優の指は、友里の体を探り、興奮を促し、誘惑してくる。友里は、しびれた脳が膨張するように、耳の奥まで、わんわんと、なにかのベルが鳴り響いているような気持ちになっていく。ビクっと太ももが跳ねた。
「そ…それ、なに?」
友里が目を丸くして聞いてくるので、優は普通の顔で手を動かしながら言う。
「中に入れる寸前で、濡れてる表面を撫でてるの、気持ちいい?」
「──気持ちいいから、優ちゃんにも、あとでしてあげるね」
恥ずかしいけどと、添えながら、ハアハアと息を荒げ、まだ友里はふざけた口調で右手を自分の口に添える。
「もう」
優は友里の唇にパクリとかみつくと、口中に舌を入れた。友里の眼前にチカチカと星が飛んで、そのゆっくりとした動きに、加えて敏感なところを執拗に攻められ、あっという間に呼吸が浅くなり、震えた。
「なに…これ?がくがくする…っ」
「ぜんぶ参考にしないでよ」
あくまで問いかける友里に、優はくすりと強気な微笑みで笑った。友里に真似は出来そうになくて、唸る。
「友里ちゃん、もっと、夢中になって」
「…うう…」
言葉を発すると、一瞬だけ、優の手が止まったが、友里の髪を撫でただけで、また再開した。唇をついばみ、友里の下唇を舐めとる優。
「アッ……ゆ、優ちゃん…んう」
「友里ちゃんがその気になるまで、してあげるね」
「ええ…ねえ、ま、待って…もうなってる、からあ……あっ あっ」
友里はもうすっかり溶け切って、ふうふうと息を吐く。瞳に欲が、あふれるように潤んで浮かんでいる。宇宙一かわいい恋人が、さんざん友里を誘惑して、試して、蕩けさせて、期待して待っていて、理性を保てと言われる方が、酷だった。
「優ちゃん、かわいい……!」
「かわいいのは、友里ちゃんだから」
背中に手が添えられて、友里はビクリと震えた。弱い傷の部分を、優がそうっと指先でなぞってくる。
「ふ…あ…あ…」
ぞわぞわと震えて、小さな声が出てしまう友里は、優にしがみ付いた。太ももを広げられ、体の中に、そっと指が入ってきて驚く。
「まって」
「今日は友里ちゃん、なにもしなくていいよ」
「だって…」
「初めてを、全部くれるんでしょう?」
優の言葉にグッと息をのんだ。確かに言ったセリフを、友里はその時にもそういう意味で優が受け取っていたのなら、なんて恥ずかしい事を言ってしまったのかと羞恥に震えた。
「いいよ…優ちゃんを貰ってるだし、どうぞ…やさしくしてね」
と、言って瞳を閉じて、お腹の上で指をぎゅっと交差して握ってから
「あ、あれ?優ちゃんは初めてじゃないかな!?」
思ったことをすぐ口にしてしまって、パッと口をふさいだ。
「わたしも、それは初めてだったよ、友里ちゃん」
あっさりと顔色も変えず優が言うので、友里のほうが照れる。そっかそっかと口の中で呟いていると、優が友里の首筋から鎖骨へキスをして、インターバルが終わったことを示した。
「うう…!」
優の強引な態度に慣れない友里は、緊張で震える。しかし淑女な優はいつでも柔らかく触ってくるので、痛みもなくあっという間に蕩けてフニャフニャにされた。
友里はみっともない声を上げている気がして口を押さえた。
「声 聞かせて」
優の切ない声に、噛んでいた指を外されて、歯形が付いていて恥ずかしく思ったその指を優がキスで癒すようにしてくれる。そして奥の深いところを内側から押されて、友里は腰をくねらせた。
「あ!…あっあっ──っ」
耳の奥がしびれるような圧迫感に、友里はそのまま、気絶するように眠りについた。
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