第94話 もみしだく

※そういうアレではないですが、背後注意



 押し倒された友里は、優の呼吸が荒っぽく興奮している事や、何度も落とされる唇の熱っぽさに、くらくらしていた。

(これは…いけるとこまで行くやつだ?!)

「ん…」

 声も思わず出てしまう。

 自分が優にしたい気持ちがむくむくと湧き上がるが、連日のバイトで、帰ったらお風呂に入って、ばたんと寝たら朝!な日々だったので、体をまさぐられる度に心地よさで、うっとりしてしまう。

「あ…っ優ちゃん……」

 腰の深いところに、優の長い指が入り込んで、ビクンと勝手に体が跳ね上がった。

 太もも、ふくらはぎ…優が触るたびに、友里はうっとり悶えてしまう。

「マッサージしてくれるの…?」

 口づけをしているので、そんなわけはないのだが、友里は肝心なところには決して触らない優の優しい手に思わず問いかけてしまった。やや興奮した優の表情が艶やかな闇をみせた。

「うそ……、恥ずかしくて、いいました。ごめんなさい」

 赤い顔で乱れた息のままそういうと、優にガバリと持ち上げられて、友里は戸惑う。腰を片手で持って、優の肩に友里のお腹が付く。太ももの脇辺りに反対の腕が添えられた。お姫様抱っこではなく、お米様抱っこだ。


「?!」

「……」

 優は無言で、素敵なドレスのまま、レンジャーのような持ち方で、友里を友里の部屋まで連れて行った。優がなにも言わないので、友里は暴れて階段で、優が危険な目に遭っても嫌なので、じっとしてしまう。

 優しく仰向けにベットに落とされて、友里は優を見つめた。


「優ちゃん…」

 優が素敵なドレスをうつくしい所作で大事そうに脱ぐので、肌の露出にどきりとしてしまう。すると、友里のクローゼットを開け、そこへ簡易的にかけると、大きめなTシャツとハーフパンツを「借りるね」と言って着た。友里は天井を見上げて、布ずれの音を聞きながらその時を待った。そして、優が、横になっている友里のそばに、ベッドをキシリときしませて、寄り掛かった。


(プロポーズのようなこともしたし、ついに?!)


 友里は優を、ドキドキしながら、見つめた。


「凝ってるのはここ?」

 優が、友里のふくらはぎを持って、お餅を揉むように、もみもみと揉み始めたので、友里は慌ててそれを否定した。

「ち、ちちちがうヨ、優ちゃんあれは!恥ずかしくて、ふざけたの!!」


「労らないといけないって忘れてた、ごめんね」


 しかし結構な強めの揉みに、友里は悶えて体をひねらせた。

「あっ!いたっ!!」

 連日酷使をされた足が、優の大きな手で全体を揉みしだかれて、声が出てしまうのを押さえられない。ひざの後ろから、ぐい~っと足首まで指が押しながら、滑っていく。

「んぅっ?!いたっいたああ!!」

「連日お疲れだもんね、上手くないかもだけど、ドレスのお礼に揉んであげるね」

「ぅっ!はあ?優ちゃん!?だめ!!いっ!あ!!」

 痛みに耐えきれず、友里は悶える。優の顔が見れず、顔をしかめて、真っ赤になる。マッサージもできるなんて、これも淑女のたしなみなのだろうか?友里は思った。

 それともこの痛みは、プレゼントが気に入らなかった報復なのだろうか?下着が少し見えていたから、素敵な下着もプレゼントしたいと思った下心がばれてしまったのか…?友里は、優に思った諸々を謝ろうとして、その全てが言葉にならないほど体が跳ねた。


「あっ!やん!アッアッ……っ!!」

 あまりに友里が悶えて大きな声を上げるので、優が笑っている。家族がいたら、あらぬ誤解を受けそうだと、友里は思ったが、声を押さえることが出来ず、体をくねらせてしまう。


「声を押さえて、友里ちゃん、はしたないよ」

「だってえ…!んう…」

 優にもたしなめられて、もじもじと足を絡ませながら、友里は口を手で押さえながら、赤い顔で優を見つめた。優は友里のふくらはぎを丁寧にもむと、声がおさまって柔らかくなったところで、もう片方の足へ移動する。

「あ!!あ!!や…!!ん!!」

 せっかく痛みに慣れたと思ったのに、また新しい衝撃に、友里は悶絶した。


 足の指の間に指が入ってきて、口をおさえていたいのに、友里はシーツを左手で掴んでしまう。友里が生涯でマッサージを受けたのは、これが初めてだったのだが、もっとくすぐったいものだと思っていた。鈍い痛みと快感で、どうにかなりそうで、涙目のまま優を見つめるか、ずっと目を閉じて耐えるしかできなかった。

 左足に入れたままのトゥリングをそっと外された。

「はあ…っ」

「大事だから、鏡台に置いておくね」

「うん…ありがと…」

 インターバルを挟んで、また再開。



「…友里ちゃんの、太ももに傷って、どこ?」

 優が熱っぽく言ってくるので、友里はあまりの色っぽさに(すこしえっちだな)と思ったが、揉んでもらっている立場なので、そう思う自分を、はしたなく思った。涙のたまった瞳を閉じて、指先で指し示す。

「…こ、ここ…」

 短パンから伸びた足を、少し広げて、足を外側へむけてひねった。すると、太ももの一番柔らかい部分に綺麗な縫合跡が見えて、優は凝視する。

「あんまり触らないほうがいいかな」

「ん…撫でるくらいなら…いいよ」

 友里は思わず、誘うような言い方になってしまった気がして、うっとりしていた自分の迂闊さに驚く。足をだらしなく広げている状態なので、それもはしたないと思った。思わず、言っておいて足を閉じる。


「友里ちゃん、続けていい?」

「お…お願いします……!」

 そっと色っぽい声で訪ねてくる優に、どきりとしながら、意味も考えず肯定してしまった。

 足の付け根をそっと触られて、友里は飛び上がった。くすぐったい気持ちと、痛みと、快感でゾクリと背中から頭部まで震えた。

「な、なに…それえ…っ」

「疲れの取れるツボだって」

「だってっ……そんな…ッ撫でてるだけなのに…!あっあっ」

 友里はスマートフォンでツボを調べてくれる生真面目な優を可愛いと思いながら、優の長い手指に体をゆだねた。

「きもちいい?」

「うん…最…高……っ」

 痛みと、体の悪いものが流れていくような感覚がして、悶えながら、友里は溶けるような声で答えた。そのまま、閉じた足を開かれて、足の付け根をさわられた。

「あっ」

 優しい撫で方から、深く肌の上から骨と骨の隙間に指が奥へ奥へと入ってくるような感覚に、さすがにくすぐったくて、上半身が浮いてしまった。両足を同じ刺激で行うために、優が覆いかぶさるように、上に乗りかかってくる。

 よく考えなくても、きわどい場所なので友里は恥ずかしさが増してしまう。

「優ちゃん…そんな…奥は…っん、大丈夫…!」

「揉んだ後は、老廃物を流さないと駄目って書いてあるけど」

「う。うう…そ、ほんとう?」

「ほんとう」

 ほらと、スマホの画面を見せてくれる。確かに書き記されている。

「それならお任せします……」

「がんばってね」

「あ、あ…!あ…っ」

 前からお尻のほうへ向かって、優の指が入り込んで、友里はさすがにこれは、なんだか違うもののような気がしてきた。けれど、優の真面目な顔を見つめて、反省する。(えっちな煩悩よ、去れ)と自分に言って、耐えて、先ほどより声を押さえてがまんしてみた。

 ハアハアと呼気を荒げて、友里が口をおさえすぎて、手がパタリと落ち、布団の上でくったりとしていると、優が唇にキスをした。優のその悩まし気な唇に、友里はやっぱり、えっちなことだった気がして、恥ずかしくなって起き上がる。すると足が、思っている以上に軽くなっていたので、本当に真剣にマッサージしてくれてたんだ…!と反省した。


「優ちゃん…ありがとうなんだけど…!」

「ん。足はこれで終わり、背中もする?」


 仕上げとばかりに友里の足の土踏まずを揉みながら優が言うので、友里は真っ赤な顔でなにも言えずに固まった。確かに先ほどまで悶絶していたその場所はもういたくなく、心地よい刺激しかない。乱れた着衣を、無意識に直す。

 優が、鏡台に置いたトゥリングを持ってきて、右足を手に取る。

「左じゃないの?」

 友里が思ったことをそのまま口に出す。

「…左は、その時がきたら、またつけさせてくれる?」


 右の薬指は恋人、左の薬指は結婚を意味する。

 友里のプレプロポーズの返事かと思って、ドキドキして右足を差し出した。

「予約だ」

 左をそっと握られて、友里は、頷く。今までだって心はこもっていたが、意味ある約束になった気がして、胸が一杯になった。

 優を押し倒すと、友里は優の足にもついていたリングを外す。

「優ちゃんも」

「う、うん」

 友里の強引さに戸惑いながら、優は長い右足を差し出した。

「恋人にもう一度なったみたいでドキドキする」

「ん」


 幼馴染みモードも楽しいけれど、やはり恋人の距離は絶対的になにかが違う。

 友里は、優に抱きつくと、好きだよと呟いて、体を重ねることよりも(それはもちろんしたかったけれど、聞けないし!)優の優しさや労いに心から感謝した。

 なんだって優との思い出は、本物だけれど、いつか、本物の指輪を左手の薬指に、プレゼントしたいと思った。


「背中…も…」

 友里は、優の体を抱きながら、先ほどの優の言葉を思いだし、返事をする。

「ちょっとだけ…してほしいかも」


 優がにっこりとほほ笑んで、結局、友里はたっぷりと全身をまさぐられた。その日は、いつの間にかぐっすりと眠り、翌日の目覚めがいつもの10倍爽やかだったので、抱き着いたまま一緒に眠って、朝を迎えた優に、感謝のキスを降らせた。


 :::::::::::::

 

「マッサージ、必要とされている感じがして、とてもいいね」

 寝起きの優がつやつやした頬で、そうほほ笑むので、友里は世界で一番かわいいと思いながら、いつだって優のことを必要としているのに、思いが足りないのかなと不思議に思った。

 それから、優はある程度時間ができると、「勉強疲れが取れる」などと言いながら、友里にマッサージをプレゼントしてくれるようになった。

 友里は「逆では?」と謎だが、めきめきと上手になっていくので、毎度わけのわからないままにほぐされてしまう。


 おかげで、年末を乗り切ることができた。


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