第80話 優かわいい同盟
「初めてはやっぱり、うちに来た時かなあ、きゅ、って俺の手だけを握ってくれてすごい可愛かった!」
駒井家の居間の白い長テーブルをぐるりと囲んだ囲炉裏状の白いソファに、L字に腰かけて、彗と友里はアルバムを囲んでいた。デジタルアルバムもあるが、プリントされたものが何枚も並べられてお得で便利なので、タブレットはめっきり出番をなくし、保存用に脇におかれた。
「きゃあ、これがその時の??」
「そうそう、白い産着、兄もみんなお下がりだったのに、優だけ特注なんだよ」
「お姫様…!!!!!」
ほとんど泣き声で、友里が叫ぶので、彗が笑いながらいう。
「そう、駒井家のお姫様・爆誕!!」
「かああわいいいい…♡」
溶けながら、友里は優のアルバムを見せてもらっている。
クローデットは、その様子に冷ややかな目線で見てしまう。優はまだクローデットの抱き枕だ。
「ああやって、情報をまず潜在的に、かわいいとすることで、後の効果をかわいいと置き換えているのよ。もしもあそこで「かっこいい」と言ってたら、変わってくるはず。プライミング効果って言うの。友里は巧みに使ってくるわ、気をつけて」
「へぇ」
優は、クローデッドの説明をぼんやり聞いた。そんなことは友里は一切考えてなさそうだなと思った。優とクローデットは似ているので、効果的にやってしまうけれど……。どっちにしても、家族には「性別:優」と思われているのでどうでも良い。
芙美花が、パラパラとお目当ての写真を探す。
「5歳の優が、突然ビー玉に目覚めたのよね、これこれ」
幼稚園のスモッグ姿の優が、桜の花びらにビー玉をかざしている。凛々しく見つめる年長の姿に、本人も光り輝いているようだった。
「ああ覚えてる。俺が中学生の時に駄菓子屋が閉まっちゃうからって記念の大きなビー玉を最後に買ってさ、それ以来。誤飲が怖かったけど、でも賢いから絶対口にいれなかったよねえ」
「優ちゃんってキラキラしたものが好きですよね、かわいすぎる」
なぜかスマホにその写真を連写でおさめる友里が、興奮しながら言った。
「あまりに集めるから、晴兄に「カラス」って呼ばれてた。「うちの烏に~」ってよくキラキラしたお土産渡してたよね、手鏡とか」
「ユウチャントリサンカワイイ!!!」
友里の鳴き声に、クローデットが思わず笑ってしまう。
3人で、笑った彼女をチラリとみてしまい「なに?」と睨まれたので、また優の思い出話に戻った。クローデットは優をなぜか軽く叩いた。とばっちりだ。
小一時間お話しして、友里は幸せ過ぎて胸がいっぱいで、最後はほとんど泣いてた。
「芙美花さんと、彗さんも「優かわいい同盟」認定です!」
「お母さんは、名誉会員でしょう?!会長は友里ちゃん?」
「そうですね!生み育ててくれてありがとうございます!!!」
「うふふ、会員証、作りましょう、私、いま手配するわ」
そういうと、芙美花は友里の写真をスマートフォンで撮った。
彗も気取った顔で撮ってもらう。芙美花自身も自撮りをして、皆で確認し合う。優の叔母の茉莉花にもすぐメールすると、恋人の分との2枚がド派手なドレスとフルメイクのキメ顔で送られてきて、大笑いしてしまう。
「クローデットはどうするの?」
芙美花が、彼女を見た。その隙に、父からメールの返信が来た。父は白衣を着て、笑顔で職場の方に取ってもらったような、はにかんだ自撮りだったので、扶美花は普通に他の媒介数か所にも保存して、ロックして、待受にした。
「私は、優のこと、カッコイイって思うからむり」
プイっと横を向いて、金色の髪がサラリと背中に落ちる。優にしがみ付いているので、優が困ったように顔を傾げる。
ピピ!っと音がして、クローデットの写真が撮られた。
「あ」
友里が、「クローデットの写真だけ優ちゃんが入ってて羨ましい」と言ったが、みんなは聞く耳を持たなかった。優は遠くでひらひらと友里に手を振る。
「10枚からだから、後はお兄ちゃんたちと、祖父母と…はい送信!納期は2週間だって~」
芙美花が呟くと、見本がメールで送られてきて、友里と彗はその画像に「本格的!」と盛り上がった。
「私を勝手に撮ったわね!」
「まああと2週間後に、「私にも!」って言われても困るから!」
ニコニコと芙美花が言うので、クローデットは「BOOO」と言い返した。
「なによ友里」
友里に見られていたクローデットが、友里に向かって高圧的に言ってきた。
「ねえ、私、優ちゃんがカッコいいとこ、聞いてみたい」
優が「えっ」と言う顔で友里をみた。(かっこいいと思われたら、どうしよう………。)いつもの心配が出てしまう。
「それでも全部、かわいい!っていうんでしょう?無理!!塗り替えようって魂胆がみえみえ。芙美花と彗、それに優がいたら、話せないわ!!」
クローデットのほうが、友里の「優かわいい」への執着を疑ってなくて、優は苦笑してしまう。
クローデットが言い訳をたくさん叫んでいるが、芙美花と彗がスッと立ち上がって、辺りを片付け始めてしまった。
「じゃあ、わたしたちはお暇しましょう?」
「そうだね、そうしよう」
「え!まだ聞きたいことが…!!」
友里が2人を惜しむように、追いかけたが、ふたりはパチンとウインクで答えた。
「駒井家も、友里ちゃんが来なくて、さみしかったってことだよ」
彗がそういって、ガッツポーズを作ると、クローデットとの直接対決を応援してくれた。友里はハッとして、彗の意図を組むと、「うん!」と頷く。
「時間はまだまだたっぷりあるから!またの機会に教えるよ、会長」
芙美花名誉会員に言われて、友里は「はい!」と胸の前で指を組んだ。
ふたりが、居間のドアを閉めて、奥の部屋へ行ってくれた。
「優は立たせないわよ」
クローデットがしがみ付いているが、優は、ソファーから簡単に起き上がった。ヒョイと、クローデットを裏返し、お姫様抱っこをして、持ち上げると友里の横に座らせた。
「わたしがいたら、友里ちゃんと話せないっていうなら、席を外すよ。もうバカなことをしたりしないだろ?」
友里の唇を奪った事件を、優は優なりに気にしていたので、くぎを刺す。頭をなでると、クローデットが「ううう」と唸った。
優とクローデットがなにを話したか──友里には聞こえていなかったが、たぶん、優とクローデットの話は済んだのだと思って、チクリとなぜか胸が痛んだ。優が友里に微笑んで、席を外す。
居間の、廊下へ続くドアがかちゃりと閉められ、友里と、クローデッドはふたりきりになった。
「優ちゃんが、かっこいいとこ…聞かせてくれる?」
「No way! Your kidding, right?」
抱き枕がいなくなったので、クローデッドは、「冗談でしょ?」と叫んで、駒井家のクッションを胸に抱いた。
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