第78話 ブルーグレイな気持ち



 蒸した紅茶を淹れる音がする。優が淹れてくれるいつもの紅茶の香りがして、友里は、懐かしいくらいだった。

 友里は、しかし紅茶をこばんだ。今から一戦控えているのだ。紅茶は戦いの後に、勝利の美茶としていただこうと心に決めていた。


 飾られた大きなもみの木ツリーを眺めて、いつもなら優と、クリスマスの約束をしたりする時期なんだなと、思ったりした。


 今日は、クローデット攻略の計画を色々仕込んできた。優と諸々の相談をして、高岡にもアドバイスを貰い、優に説得されて仲良くするのでは意味がないと、同席を拒んだが、どうしても優が一緒にいたいというので、一応友里がひとりで実行をするが、そばにいてもらうことになった。最終兵器を使うことは出来なそうだ。土曜日なのに、たまたま彗さんもいてくれて、テストあけなので優の予備校もなかった。



 紙袋や不織布に、いろいろなものを入れてきた友里はまずはという姿勢で、クッキーとチョコの詰め合わせをクローデットに渡した。プイと横を向かれるので、テーブルの上にそっと置いておく。コンビニ駄菓子も、そこに置いた。


「あとね、これ、制服を作ってきたの。良かったら合わせてみて!」


 友里は、大荷物の中からキレイにラッピングした袋を取り出した。友里の制服だと胸でスカートがだいぶ持ち上がっていたので、目測だが、仕立て上げた逸品だ。

「良かったら優ちゃんも!」

「え!?嬉しい」

「後ろチャックだから、ジャケットの日だけ使ってね、バレちゃうから」

「あはは、ありがとう!横チャック、見た目は美しいけど不便なことが多いものね」

 優が嬉しそうに受け取るので、クローデットはソファーの端へ投げ捨てた。


「いらないわ。友里のものを着て、私のほうが秀でていると優に見せつけたかっただけだし」

 制服は、ビニール袋が滑って、ソファーの下へぽそりと落ちた。

「そんな言い方ないだろ」

 優が注意をしながら、それを拾ってくれたが、クローデットはお構いなしだ。

「好意を見せれば、相手も好意を向けてくれるなんて、幻想なのよ」

ビシっと言って、長い脚をソファにのせて、その一区画を占領してしまう。


「でも、友里ちゃんの制服は、君にサイズがあってなかったし、比べたら、友里ちゃんのほうが、きれいに着こなせていたと思うけど」

 優がクローデットの隣に腰かけて、わざと友里を上げるように言うので、友里はそこまで行って止めようとしたが、クローデットが、優を睨んだ後、その場でほとんど布がない黒いレースとピンクの下着姿になったため、「ぴや!」ッと驚いて目をそらした。優と彗はもう慣れているのか、どうでもいいような素振りだった。(駒井家でどんな生活しているの?)友里はドキドキしてしまう。


「ほら、どうよ、優、美しい?」

 友里が思った通り、友里よりウエストを高く、胸の下に制服の形がずれない程度にスカートをながめにとることで、胸周りばかり強調されず、スカートも持ち上がらず、スタイルの良さを出すことができた。(あ、でもやっぱ裾が美しく均一の高さにならなかったかも……測らせてほしい…)仕上がりに、残念な気持ちが残る。しかし、優の為以外に、この技術が使われると思ってもみなかったので、友里は感動した。モデルも良い。


「うん、きれいだよ、クローデット」

 優に褒められて、金色の髪を後ろにポニーテールにまとめて、どや!と鼻を高く上げた。ブルーグレーの大きな瞳で友里を見やるので、友里は、やはり、優のことを抜きにしたら、クローデットと友達になりたいと思っていただろう。


「編入してあげましょうか?」

「クローデットが日本で学ぶことなんて、なにもないと思うよ」

「優との恋を学ぶに決まってるでしょう?特許もあるし、お金には困ってないの♡」

 ソファーに座る、優の胸にどさりとよりかかって、優の鎖骨の下あたりをクローデットが人差し指でツンツンと攻撃しているので、友里は頭の中で「1HIT…2HIT…」とカウントしていた。


「クローデット、優ちゃんのいいところを、言い合わない?」

「NO!」

 友里は、クローデットが、「優かわいい同盟」に入らないかなと、思っていた。

 最初に逢った時に言っていた、「昼間の優はKawaii」この発言を、聞き逃してはいなかったのだ。あまりに怒りや嫉妬に翻弄されて、視界が狭くなっていても、「優がかわいい」この言葉は、何度でも反芻していきたいのだ。


 『優が可愛い部分を、分かち合えれば、同じ推しを愛でる同士、仲良くなれるのではないか…!!世界平和!!!!』と、まあ、軽く考えて、優の話をふっては、毎回毎回撃沈していた。──同じ推しを愛でる仲間でも、同坦拒否の存在を、友里は理解していなかった。

 高岡は、この計画は初手から破綻しているのでは?と思っていたが、なんでもチャレンジすることは大事だと思っていたので、黙っていたが、友里があいうえおの順に優の良いところを並べ始めたので、さすがにそれは辞めろと釘を刺した。

 友里のテンションとではクローデットと、盛り上がるとは思わなかったからだ。



「わたしは、優ちゃんのすばらしさを語り合えれば、それで良いのになあ」

 ぽそりと、友里はひとり呟いた。

 すると、彗が前のめりで食いついてきた。自分を指さして、微笑む。


「優が可愛いところ、俺いっぱい知ってるよ」


 タヌキのようなタレ目で、かなりの美形な彗が、子どものようにニッコリ笑った。


 盲点だった。



 9歳の年の差。

 記憶力抜群の、年上の兄……!!!



 なぜ、2歳に出会ってから、15年、「兄から優の話を聞く」そんな素敵なことに、きづかなかったのか……!!!!!!!!!3人いるので、3人分聞ける!


 友里は、彗の隣にいそいそと座って、「一番かわいいなって思い出を最初に聞かせてください!」とメモを取った。スマホのボイスレコーダーもついでに起動した。


 「え、恥ずかしいな、撮ってるの?あはは」とはじまる、彗のボイスレコーダーは少しだけ優の声に似てて、友里はときめくのだが、途中に入る自分の叫び声で全部台無しになる運命を背負っている。



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