第66話 異邦人
後夜祭の当日、日曜日。友里は、駒井家に早めに制服で押し掛けた。朝のコーヒーを芙美花さんがいれてくれるというので、うきうきでチャイムを押した。
出てきたのは、金色の美しい髪を腰まで長く伸ばした、スタイルのいい女性。
「あら、あなた」
友里を上から下まで眺めて、フウンと言って、高い位置にある腰に手を当てると骨盤をカクンと天秤のよう動かした。
「荒井友里ね」
ビンゴ!と人差し指でさして、流暢な日本語でそういった。
Claudette──クローデット・マシュー は、優が茉莉花の家へショートステイしていたときに出逢った、優にとってのもう一人の幼馴染みと言う。
「優の恋人よ!」
「そんな馬鹿な!」
珈琲の香りのなか、友里と彗と、優が一斉に、ソファから立ち上がったので、芙美花は面食らった。はたとして、彗がふたりを座らせる。クローデットはカラカラと笑った。
「大学がお休みにはいったから遊びに来たんですって」
「本来は12月からなんだけど調節したら、早めに休みがとれちゃって」
芙美花とクローデットがふたりで状況を説明して、ニコニコと微笑みあう。飛び級制度で大学生だが、年は友里たちと一緒の17歳。くっきりとした目鼻立ちをしていて、瞳は青みがかったグレー。唇はふわりとした赤、鼻は愛らしくプックリしている。アジア系の祖母の血らしい。そばかすはなく、真っ白の肌をした、スタイルのよい美少女だった。
駒井家に友里のいた部屋で生活するときいて、なんとなく友里は、不思議な違和感を覚えた。
友里をジーっと見ると、にんまりと笑いを見せた。歯並びも美しい。
「日本の制服かわいい、着てみたい!」
言うが。優の制服では細すぎて入らず、友里に白羽の矢が当たった。
友里は、慣れ親しんだ客室へはいると2日も経っていないのに既に、クローデット色に染まっていて、部屋はショッキングピンクと白黒で溢れていた。すっかりちがう部屋だ。優の私服を借りて、クローデットが友里の制服を着る。
「少し胸がきついけど、あとは平気」
金髪を2つに三つ編みにして、グレーのジャンパースカートがとてもよく似合う。赤いリボンが映える。
友里よりメリハリボディのようで、スカートの胸部分がバーンと前に膨らんでいるのに、腰はすかすかだ。
(まあわたしはちんちくりんなので…)友里は、なぜかクローデットのことが苦手だと思っていた。初対面の人に、そんなことをおもうのは、はじめてだった。優の取り巻きの、妖艶な女の子たちに似てるからだろうか?
「ねえ荒井友里。優とつきあってんの?」
こっそりと聞かれて、友里は、ビクッとした。優は別の部屋で制服に着替えている。クローデッドと友里は友里がいた客室で着替えていた。
「…言いたくないです」
「どうして?」
「なんとなく、いじめようとしてるかんじがするので…」
友里がここまで敵意を向けることは、本当にとても珍しかったが、クローデットにとって友里は初対面で、(こういう子なんだ?)とおもわれても仕方ないことだった。しかし、友里の勘は当たっていて、クローデットは友里に意地悪をするために、その質問をしていた。にんまり笑う。
「優のことが好きなのね?優のはじめては、わたしがもらってるのよ」
「……?なんですって」
「夜の優は、クールでかっこいいのよ。激しいキスの応酬、無言でずっと際どいところを攻めてくるの!私がやめてって言ってもやめてくれないけど、とろとろにとかしてくれて……」
「クローデット!」
友里はバンと開くドアと、優の大きな声を聞いて、ビクッとした。ノックをしないで優が入ってくるなんて!
「変な、話してない?」
「シテマセーン」
クローデットは流暢な日本語で外国人のふりのような奇妙な口調でかえした。肘を曲げて手で空を持ち上げるようにフワフワしている。
「…もう。友里ちゃんごめん、ふたりきりにして……」
優があわてて友里の肩を抱くようにして、友里の視界からクローデットを隠すように自分の胸におさめた。
「いえ、いいんだけど…優ちゃんは、クローデットさんとお付き合いしてたの?」
「してないしてない!してないよ!わたしはずっと友里ちゃんしか好きじゃない!」
慌て過ぎた優が、今ここで言わなくていいことまで言って、友里はポッと赤くなる。
「あらじゃあ、いまは、セフレってこと?」
「ねえほんとにやめて…!」
「昼間の優はkawaiiね!」
顎をするりとなでられて、優はまたギャッと怒った。クローデットは友里より少し背が高いくらいだった。165cmくらいだろうか?178cmの優とそばにいると、ふたりの等身や、スタイルのよさがぴったりで、まるでアート写真のようだった。友里には、顎を撫でられる仕草すら、触りなれている気がしてドキリとした。
「なん、で」
「優との夜、まだまだ聞きたいの?友里」
「ないよそんなものは!」
優が珍しくずっとあわてていて、いつも常に余裕綽々な様子にみえる友里は優のその姿にときめいてしまっていたが、クローデットが苦手な理由がわかってきた。
「優はほんとにクール!私の王子様なんだから!」
クローテットが夢見るように両手を組んで、優の胸にすりついたのを見て、友里は叫んだ。
「優ちゃんは、淑女ですからっ!」
友里は怒っていた。
必ずや、優が淑女であることを、知らしめねばならないと、胸に誓った。
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