番外編 エイプリルフール
小学5年生にもうすぐなる荒井友里は、幼馴染の駒井優の家のチャイムをピンポンと押して、ドアホンに話しかけた。
「優ちゃん!!きょうもあそぼ~!」
玄関に迎え出た優は、血相を変えた様子で友里に抱き着いた。
「おとうさんが、誰かに殺された…!」
「え!?」
居間に走って戻るので、友里も追いかける。
広い居間の真ん中に、ナイフで一突きにされた、優の父が倒れていた。
母の芙美花が、泣き崩れている。
「え…!本当に…?」
「この家は、家から誰かが出るときに防犯で録画される。窓のカギもすべて施錠されている。家の中に、まだ犯人がいるんだ…」
「え!怖い…!!!」
大学生の晴兄が、「俺が来たらもう、こうなっていたんだ」
中学生の星兄が、「俺は、晴兄が叫んだ声で起きた」
高校生の彗兄が、「俺は、帰宅した母さんが呼んでくれたので、コンビニから戻ったばっかりだよ」
母は「昨夜から、お父さんの様子がおかしかったの、なにか悩んでいたみたいだったのに…私が相談に乗らず、仕事に行ってしまったから…」
防犯ビデオを見ると、深夜から早朝まで、家から出たのは、順番に、仕事へ行く芙美花、ランニングへいく優と、コンビニへ行く次男、帰宅する長兄。芙美花の姿だった。
「一体、だれが僕を殺したかなあ?」
死体役の父が起き上がって、一緒にビデオを見る。
「!!!」
友里が声にならない声で、死体メイクばっちりの優の父に驚く。
思わず優にしがみ付くと、優はぽややんとお花を飛ばして友里を抱きしめた。
「もう!お父さんは寝てなきゃダメ!」
「あ~~血のりがこぼれちゃったじゃない、掃除掃除」
大学生と高校生の兄が、掃除を始める。中学生の兄は、ごみ袋を持ってまだ眠そうにしていた。
「…どうして優ちゃんちは、イベント事にこんなに一生懸命なの??」
「なんでだろう、生まれた時からだからわからないや…」
優は友里の疑問への答えを、かわいく小首をかしげて言った。
「友里ちゃんは分かった?今のヒントで」
「お父さんはいつ帰ってきたんですか?」
「ああ、それは、昨夜の0時よ」
芙美花が応える。
「そしたら、ビデオに写ってないのは、おかしくないですか?」
「うふふ、利発ね!そうね、もう一回見ましょう!」
芙美花さんがビデオを見直す。
やはりおとうさんは帰宅していない。
もっと早く帰宅したのだろうか?
「晴兄が怪しい!!」
友里がそういう。
「お兄ちゃんたちがいなくなって、晴にいと、お父さんしかいないから!」
友里の言葉に、駒井家が「わ~」と拍手になる。(おれもいるが)と三男はあくびをした。
「第一発見者だから?ありきたりな…」
長兄が眼鏡のブリッジをクイと上げて、友里の推理を否定する。
「俺が帰宅したらもう死んでいたんだぞ?」
「それが嘘なの、お兄ちゃん、今日はエイプリルフールだから、嘘をついているの」
小学5年生になりかけている友里がたどたどしく言うので、晴は思わず友里の頭を撫でた。
「じゃあ、俺が犯人でいいか…」
「晴兄!」
優に「さわらないで!」と怒られて、晴は手を引っ込めた。
「もっと早い時間はないんですか?」
「ビデオはここまでよ」
うーん、と友里と優は首を横にひねる。
「そしたら、お母さんが嘘をついていることになる」
「はい、優さん」
「お母さんは、いつものように8時から9時に帰って来たお父さんと何らかの口論になって、わたしたちが寝ている間に殺害、会社へ行ってしまう。そして、居間を通らないで家から出られるわたしたちは、その遺体に気付かず、帰宅してきた兄だけが、ご飯を食べるために居間に入って、お父さんの遺体をみつけたのでは?」
「は~~い、せいか~い!!」
ぱちぱちぱちぱち。拍手が起こって、10歳の優が、ふんと胸を張った。
友里が、優ちゃんスゴイ!というので、頬を赤くする。
「友里ちゃんが、嘘つきがいるって言ってくれたから、気付いたんだよ」
「うそついちゃだめだよね!」
「ねー!」
ふたりは今、道徳の授業で「嘘をついた場合」という項目をしていて、嘘つきがひどい目にあうシーンで傷ついているところだった。
大人たちはその様子にポヤヤンと穏やかな気持ちになっている。
死体役の父は、化粧を落としながら、友里にいいとこまで行ったのにねと優しく微笑みかけてくれた。
「エイプリルフールは午前中しかうそをついたら駄目とか、本当になってほしい嘘をつかないと叶わないとか、色々ルールがあるんだよね」
「本当になってほしい嘘?」
「じゃあ、優ちゃんと一緒にいない!」
「え!」
「一生優ちゃんと一緒にいない!!!」
「友里ちゃん??」
「優、反対の意味よ」
動揺する優だったが、母に言われて考える。「あ」という顔をして、優は喜んだ。
「一生一緒にいる」という意味だ。
「わたしは友里ちゃんが、キ」
「キ?」
友里の両手を握って、まだ身長差のない距離で、見つめ合って、嫌いと言おうとして、優は嘘でも言いたくなくて、言葉に詰まった。
「キリンが一生見れない」
「なにそれ?!今度、動物園にいこうね!ってこと??」
かなり苦しい。優もすごく恥ずかしい顔をしていて、大人たちは笑ってしまう。駒井家のお姫様たちが可愛すぎて、動画に撮りたいが、きっと撮り始めたら利発なこどもたちはやめてしまうのがわかっているので、全員楽しむだけだ。穏やかな時間が、流れている。
「ぜったい行こうね!じゃないや!ぜったい行かない!!優ちゃんと動物園にいかない!」
友里が喜んでいるので、いいやと思って、優はその手を優しく握った。
その数日後、友里たちは大変な事故に遭ってしまう。
いつかのエイプリルフールの願いは、優の17歳の誕生日で果たされた。
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