第61話 ふたりだけの夜
※いちゃいちゃです。
友里は、17時からの予備校に行った優を、21時に駒井家玄関で、お出迎えした。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
優はホッとしたように、玄関で待っていた友里に挨拶をした。毎日、友里がいることが奇跡みたいに思える。
(今日帰ってしまってたら、どうしようと思った)
ポニーテールに新しい赤いシュシュを付けていたので、それを優が褒めると、友里は「新作」と嬉しそうに言った。
「芙美花さんは、お仕事に呼ばれて行っちゃった。おとうさんは当直だって!優ちゃんは、彗さんと一緒に帰ると思った」
「文化祭の後、急患が出てしまったようだよ」
やはり医者は忙しいのだなあと当たり前のことを改めて思いながら、未来の優に想いを馳せる友里は、優がお風呂に入っている間に、お夕飯をテーブルに並べると、一緒に席に着いた。もう先に頂いていたので(待てばよかったかなぁ)と思った。
「今日のお夕飯は、芙美花さんと一緒に作ったんだよ、優ちゃんが手際が良いイイコな理由がわかっちゃった!すごい指令が的確」
お風呂から上がってきた優は、席について、優の母の芙美花をいつの間にか、友里が名前で呼んでいる事や、母の司令塔ぶりを、きんぴらごぼうを食べながら、もぐもぐと噛みしめた。
(まるで結婚しているようだな……)
勝手に自分で思って、無表情だが、心の中で思い切り照れてしまう。
「ちゃんと家事は分担するからね」
「?なんのはなし?」
頭の中のシミュレーションに、勝手に返事をして友里を惑わせた。
「文化祭デート、楽しかったね」
友里がポニーテールにした毛先を、するりと前に持ってきて、椅子に深く腰掛けた。優は笑って、頷くと友里を見た。お互いに気持ちが通じ合って、心がポカポカになるような気分がした。
告白が出来たので、心の澱が消えている気がした。
友里が駒井家にいる理由として、ひとりにしない為なのに、留守番をさせていたことに多少のわだかまりがあるが、──家族が、全員いないことを知り、優は少し大胆な気持ちになっている。
ホームだし、気が緩むのかもしれない。友里を自分の横の席に呼んで、隣に座ってもらうと、箸をテーブルの箸置きにキチンと置き、友里を抱きしめた。
「優ちゃん」
胸の中で、友里が名前を呼んでくれることが嬉しくて、優はしばらくそのままでいた。頬を撫で、髪をそっと指に絡める。背中を淡く撫で、首筋に顔をうずめると、バレない程度のキスを落とした。
「ひゃ」
「…充電」
「んあ、な、なにそれ、もう~」
いちゃいちゃだ。やってから、急に恥ずかしくなって、優は名残惜しい気持ちで友里を手放すと、友里は首元を押さえて真っ赤になっていた。(バレたかな)と思って、お夕飯のお味噌汁を飲んだ。具沢山で、うちの味と少し違った。友里を見ると、もうニコニコしている。
「今日は荒井家のお味噌汁だよ!懐かしい?」
「うん、さといもが好き」
「優ちゃん、人参食べられないのに、根菜が好きだよね」
きんぴらと言っているが、レンコンとごぼうとこんにゃくだけなので、人参は入っていない。「苦手なものを食卓に並べたくない」という芙美花さんの教えだ。栄養素は他の野菜でとればよし!という方針らしい。小松菜のおひたしを、優はモリモリ食べている。
「お肌ツルツルだし、栄養バランスって大切なんだねえ」
友里は、駒井家の食卓を知るたびに、優のルーツがどんどんわかる気がして、嬉しいという。ずっと一緒にいて、(これが当たり前)ということがわかっていても、リアルに体験するとまた違った喜びがある。これを何年も経験して、当たり前にしていきたい。
「今度は、わたしが荒井家の色々をしりたいなあ」
思いついたように優がそういうので、友里はときめく。
「今度は優ちゃんが、うちにショートステイする?うちには客室なんてないから、わたしの部屋に一緒に住むことになっちゃうけど、たのしそう!」
「……うーん、ちょっと考えたい、それは……」
優は歯切れ悪く断った。いつもなら笑顔でOKしてくれる流れだったので、友里は首をかしげて、(でも確かにうちは狭いしなぁ)とひとり納得していた様子だったので、優は困ったように言った。
「…ちがうからね?一緒の部屋で、生活なんてドキドキするから、だから」
友里にわかりやすい言葉で、伝えたからか、友里はすぐに承知して「え!」と言った。頭から湯気が出ているかのような、友里を置いて、優は自分の食器を片付けた。軽く水きりにおいて、拭いておく。一人分だと簡単で良い。
今日の戦利品である、ガラス釉薬で白い陶器に透明の青いガラスが美しく焼き付けられている、小さな器に紅茶をいれて、友里に渡す。大きいほうが友里だ。
それを優は眺め、手に取る。
「かわいい、まっしろで友里ちゃんみたい」
「……急に褒める…!今日はどうしちゃったの、優ちゃん」
紅茶を持ちすぎたのか(あつ!)と震える友里も可愛くて、にやけてしまう。肩に手を回して、抱きしめると、友里もそっと体を預けてくれた。抵抗のない体が心地よく、優はそのまま、話し出す。
「いつも思ってるよ。今日、ナンパされた時も、ちゃんと断ってくれて手をつないでくれたでしょう?あれも、嬉しかった。友里ちゃんといるだけで、ドキドキするってことを、ちゃんと伝えておきたい」
優はいつものような口調で言ったが、頬が赤くなる。友里に変に思われてないだろうか?チラリと友里を見ると、友里も赤くなっている。想いが伝わったようでうれしい。
「ちょっとずつでいいよ、心臓が持たないから!」
叫ばれて、優は(ちょっとずつなのにな、変な友里ちゃん)と思った。
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