第48話 いたよね
※多少のホラー要素があります。
国見と関を見送った後、あんまり傷ついていない自分の手首を優がずっと握っているので、ファンの暴走に傷ついているのかな?と思い、気分転換させてあげようと顔を覗き込んだ。
「わたし、おばけついてるみたい。──怖い?」
友里はちょっとだけ意地悪な気持ちで、優を見つめた。
「……こわくないよ。鍾乳洞から出れて良かったね、友里ちゃんは明るいからきっと楽しいよ。皆さんよろしくね」
優は青い顔だが、にっこりと友里のそばについているらしき親子に挨拶をするように、無理して微笑んだ。艶やか華やかないつもの笑顔ではなく、月夜に輝く月下美人のようで、友里は、にんまりとその豊かな香りにうっとりした。
夕飯あと、優と友里はみんなが大浴場に行っている間にもう一度再会した。
自動販売機の明かりが灯る休憩所へ向かったふたりだが、そこに、女の人が立っていた。白いワンピースをふんわりと羽織った、髪の長い年上の女の人だ。
修学旅行生以外がいるのをおかしいと思った優が「どうかなさったんですか?」と声をかけた。
「道に迷ってしまって…」
鈴の鳴るような声で女性が言うので、優は指で指し示しながら、一般宿泊客が泊まる本館をみやった。
「あちらの明るいほうへ向かうといいですよ」
友里に「ねえ、送っていこうか」と問いかけた。
「いまきたのに?」と友里。
優が「え?」と振り返ると、女性はもういなかった。そこには、暗闇の中で光る自動販売機と、それに照らされた、青い樹脂製のベンチがあるだけだった。
優の顔面は、サッと青くなった。長身を生かして、あたりを探るが、女性の姿は見当たらなかった。
「優ちゃんもう戻りたいってこと?」
友里は、今度は優が自分を送ってくれるのかな?と優に問いかける。
「違う、今、女の人が──」
白いワンピースを着た長い黒髪の女性だったので、あまりの定番ぶりに、ホラー話が好きな友里が(わざと見えないふりをしているのかな?)と思い、優は友里に問いただす。茉莉花から、悪いからかいかたを覚えたのかもしれない。
「友里ちゃん、怖がらせようとして、わざと言ってる?」
「わっ優ちゃん、優ちゃんが怖い話、仕込んでくれたの?なになに?どんな話?」
友里は完全に女性を見ていない。優はゾオっとした。初めて優が、自分からホラーな話をしてくれたと思い、興味津々で優の腕に絡み付いた友里に逆にしがみつく。
「ほんとに!?!」
柔らかな友里の体を左腕に感じながら、ほとんど悲鳴に近い声で、優は友里をだきしめてなにかの空気を避けるようにして叫ぶ。女性が消えた方向から、国見真知子がやってきた。駒井優の姿を見つけて、サッとキレのある回れ右を見せた。
「待って待って、国見さん!今そちらに女の人いなかった?!」
友里が、息を切らして逃げようとする国見真知子の背中にしがみついて、問いかけた。話しかけられた国見真知子は、夜の闇のなかで、自販機に照らされながら、じっと国見を睨む優をみて思い切り目が泳いだ。
「い、いたわよ…一般客だったから、一般の人のホテル通用口、教えたわ…」
真知子の声に、友里は「がっかり!!」と言い放った。
「ほら、おばけなんて本当はいないんだよ」
震える優の声。国見真知子は「え、ええ?い、いるんですって…ほんとに」ドモリながら主張した。
「そういえば、今日は関怜子さんいっしょじゃないの?」
友里は国見のふわふわのおなかにしがみつきながら、国見の心を開こうと、そう聞いてみた。幼馴染だって、たまには離れることは知っているけれど、あれだけ一緒なのだから、国見とも会話が弾むのではないかと思ったからだ。国見は駒井優をかっこいいと思っていそうなので、「優かわいい同盟」に入る確率は低いが…ホラー好き同士仲良くなれたらいいなという算段もあった。
「は…?」
「ほら、あの…赤毛の三つ編みしてる!ソバカスが超キュートでオレンジの髪の、色の白い!!関怜子さん」
友里が明るく言うが、国見真知子は友里をきつくにらんだ。
「関怜子は……中学の時に亡くなってるけど…あ、荒井さん、私に対する仕返し?」
嫌そうな顔で、国見真知子は言い捨てると、長い前髪の隙間から、友里をキッと睨みつけて、お目当ての炭酸飲料をサッと購入すると、去って行った。
友里は、優を見やる。
優は、にっこりと素晴らしい笑顔で友里を見た。真っ青だ。
「ねえ優ちゃん、いたよね?????」
「いたね……」
「話した!!みたよね!??!?!」
「みたね……」
友里は笑顔で優の腰あたりの体操着を掴んで、痩身の優をぶんぶんと振って
「きゃー---!!」と楽しそうに言った。
優は、くらくらと立ち眩みを覚えた。
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