第47話 ついてきちゃったわね

 ※多少のホラー要素があります。



 ひめゆりの少女たちの出来事を当時の資料を交え、学んだ友里たちはしょんぼりとして、泣き出す子達もいた。

 ニライカナイ橋を通過して、東洋一美しいと言われる鍾乳洞、玉泉洞へ向かう。思っていた何倍も蒸し暑く、長そでを腰に巻いてしまう。少し滑りやすくはあるが、明るくて思いがけず手をひっかけたりする怪我をしそうな心配はそこまでなさそうだった。

 避難豪として使われていた場所で同級生が「ここに亡くなった赤ちゃんを抱いてるお母さんが見えるわ」とつぶやいたので、友里は思わず発言した子を見た。


「なによ」

 友里をなぜかキッと睨むのでひるんだ。喧嘩の早い後楽が「なんだぁ?」というが友里と萌果にステイされる。

 長い黒髪、前髪でほとんど目が見えない。ぽっちゃりとして胸が大きく、鼻がとても高く、ぽってりとした赤い唇だけが印象に残る。猫背だが、友里と同じくらいの身長の女子だ。

「あわわわ!ごめんね」と間にはいるのは、人懐こいソバカスがよく似合う、肩までのオレンジかかった髪を三つ編みにしている女の子。色が白く、薄い唇が鮮やかなオレンジだ。150cmくらいの身長で、小柄で海外の女の子みたいだ。

「わたし、関怜子せきれいこ。睨んでる子は国見真知子くにみまちこ。経理クラだよ、駒井くんのファンなの、許してやって…自由行動を一緒にいくの断られて、イラついているんだとおもう」

 関が自分と真知子を、それぞれ指差し、友里に説明をしてくれる。経理クラスの女子らしかった。真知子と関は、優と友里とは少し違うが、幼馴染のようなものらしい。しかし関が何を言っても制止しても、真知子は関をちらりともみなかった。

「わたし……霊の声がきこえるのよ、荒井さん」

 真知子がそう言うので友里は好奇心が抑えられなかった。

「どこどこ、どこにいるの」

「……!」

 友里はホラーが好きだ。ちゃんと怖がるので、なにかいるという感覚を感じたなら、すごく怖がる。ものすごい楽しく怖がる。しかしそこには名前の付いた岩しかなく、田舎の道よりはずいぶん明るいので、死角もなく、──もしも真知子が仄暗い鍾乳洞で友里を脅してやろうとして言ったのだったら、大失敗だ。

「そ、そこよ」

 友里の勢いに圧倒されて、真知子は指さしながら言い淀む。友里がそこに近づいて、ここかな?と椅子のようになっている鍾乳石に手を振ったりしている。もしも本当に赤ちゃんとお母さんがいるなら、なにか失礼なことがあってはいけないから、しゃがんで「こんにちは」と言った。

「変な子…」

 真知子に言われて、友里は久しぶりにショックを受けた。

「ごめん!ほんとごめんねえ、わるいこじゃないの!仲良くしてあげて!!」

 関は繰り返し道化のように謝ると、逃げるように先に進む真知子を追いかけた。



 夕食中に友里はその話を優に言ってみた。優はみるみる顔が青くなって「でもなにも見えなかったんでしょ?」とか「でもなにもなかったんだよね?」と何度も問いかけるので友里はかわいすぎて震えた。国宝だ。


「おばけ……ホントに困るなあ。日常に支障が出ちゃう」

 ため息をついて、優は幼いころから変わらない様子で、自分のおばけ嫌いに文句を言う。血みどろスプラッタは大丈夫らしいので面白い。なので、ゾンビも行けると思うのだが、優は頑なに拒否する。

「命がなくなってるのに、動いてるっていうのが境界線なのかな?」

 友里が言うと、優は「ああ」とひらめいた顔をした。確かにスプラッタは生きてる人がめちゃめちゃになるだけだ。めちゃめちゃになるディテールが素晴らしいほど優は大丈夫らしい。


「あっ!………ついてきちゃったわね」

 食道の机の通路を通りすがりに、真知子がボソリと、いやに通る低い声で友里に言った。友里にとっては輝きしかない駒井優が柱の影にいることに気付いてないようだ。友里はチラリと優を見ると、優が、友里を守るためか立ち上がったので、関の言葉を思い出し、(ファンみたいだから、かくれてて)と人差し指を唇にあてて、シーと言う。優には友里がとても可憐にみえるので大人しく従い、着席した。

「鍾乳洞の親子に挨拶なんかするから、ああいう手合いは、無視しなきゃあダメ。あなたもう、子ども産めないよ…うふふ」


「うぐっ」

 友里は思わず口を抑えて、自分の体を抱き締めながらしゃがみこんだ。

「すでに影響がでたんだ」

 真知子の言葉に、耐えきれずに友里は震える。真知子がほくそえんで、友里を見下ろしていると、真知子のそばにいた関が、「ごめんなさい」とまた言っているのが聞こえた。しかし、友里は我慢しきれず噴き出した。

「さ、さいこう…!さいこうのやつ……!あとでまとめて…テキストで読みたい…!」

 友里は震えて、キラキラした瞳で真知子に向き合った。頬がピカピカに輝いてる。

「才能!」

「バカにしてんのっ?」

 真知子がどなりつけながら、友里がつかんだ両手をほうり投げるように引きはなした。長い爪が、友里の手首をガリと掻いた。

「…!」

 ガタ。椅子が鳴った。


「きゃー駒井くんだ。今日もかっこいいねえ」


 まったく知らないクラスの女子の声がして、友里と真知子は振り向いた。優が、ふたりから見て柱の後ろがわから、椅子から立ち上がってこちらを見ている。完全に国見に対する敵意をむき出しにしているが、友里は、(…あのポーズ…?なにかの絵画でこの感じあったな…?天使がこちらを覗いてるやつ…宗教画かな?)とおもいながら「ユウチャンカワイイ」と鳴いた。


「こここここっまっいゆうさんっ」

 真知子は鶏のように鳴くと大袈裟にあとずさり、食堂の机の足につまずきながら、逃げていった。


「あ〜〜〜〜ごめんなさい、ほんとに…!」

 関が友里に、怪我をしてないかのぞき込んでくる。手首を見ると幸い、赤くなっているだけだった。関はまたペコリと道化のように謝る。優は友里を心配して立ち上がってくると、友里の手首を見たが、友里は「大丈夫!」と半袖の体操着からむき出した腕をぶんぶん振って、握りこぶしを見せつけるようにした後ピースをする。ふたりにぺこりと頭を下げて、関は真知子を追いかけてフォローにいった。


「幼馴染が暴走すると、たいへんよねえ!」


 友里が言うので優は噴きそうになりながら、関の気持ちを慮った。

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