第30話 自覚②

※二本UPの二本目です。



「そういえば、高岡ちゃんから遊園地の写真送られてきたのは、みた?」


 優が明らかに会話を遮って別の話にした。あからさますぎる!と思った友里だったが、緊張感や恥ずかしさが限界突破してたこともあり、わたりに船だった。今日はほとんどスマホをさわってなかったことに気付いて、スマホを探した。

 バイトの鞄にまとめて入っていて、部長に感謝した。まずは部長に無事なことを連絡し、告白の失敗やらもついでにおくった。

 岸辺と乾からも【友里のファミレスに宿題やりに行くぜ】とメッセージがきていた。すぐにシフトをふたりに送った。

 優に断りをいれてからどんどん開いていく。高岡と優とがなぜか猛反対したため、グループを作らなかったので個別に写真が送られていた。


「あ、これ送って」

 ジェットコースターから降りてきて、優と手を繋いでる時の写真を眺めていると、優が友里の頬に顔を寄せ、横に並んで、そう言った。なぜか優が見切れているので(なぜなのか後で高岡ちゃんにきこう)と友里が思っていると、送ってほしいと優が再度言うので、大口で笑ってて、恥ずかしいから駄目、と友里は断った。

「残念。わたしからみた友里ちゃんまんまでとてもいいのに」

 優は本気で悔しそうだった。こんなバカっぽい顔で優を眺めているのか……友里はがっかりした。

「あ、優ちゃんが送られてきた方も見せて!」

「え!大した枚数はなかったよ??」


 どれどれ、と友里は優の胸元に顔を付けてスマホを覗いたが、画面が完全に真っ暗だったので、お膝に座るような形で優のスマホを見つめた。告白など忘れて、完全に幼馴染の距離感に戻っていた。

 無機質に、加工なしでも輝く優がうす暗い遊園地の中で遠くにいるマスコットに風船を渡されていたり、大きな観覧車のまえで歩いていたりする写真ばかりだった。友里のモノは加工がしてあったのに。

「えー…ほんとだ三枚??嘘でしょう…絵画みたい…。わたしが撮ったの送ってあげたほうがいいかなア」

「いらないでしょ…」

 優は友里の撮った優がキラキラしている写真を送り付けられて獣のように唸る高岡を思って、クククと低く笑った。


「や~~、ほんと優ちゃんはどの角度も美しいね。そういえばこのサングラスって返さなくていいの?」

 遊園地ナンパの件を蒸し返されて、優は(写真は良くない文化だな)と思った。

「えーと、好きな子を待ってるって言ったら優しくしてくれたんだ、何個もあるからって」

「さすが……」

 友里が自分に嫉妬ではなくあきれた気がして、(実際は、優の美しさに感心していたのだが)わざとではないが自重しようと優は思った。大切なのは友里だけだ。誠実は大切。

 自分は愛したいけど友里からの愛は間違ってる気がするので嫌われるようなことをたまにしてしまう優は、しかしやってしまってから後悔するのだ。後悔先に立たずと言うので、本当に自重しよう。

「高岡ちゃんと仲良しに戻れて良かった」

 優はそう、それだけは本心で思っていた。

 名前と顔の一致しない友里だけの友人を、ふたりも知ってしまったのは仕方ないが、友里が失ったものを取り戻せた気がしていた。

「そだね、うん…」

 しかし友里はそっけない。薔薇色の頬で"高岡ちゃん"の話をするまでにはまだ当分かかりそうだった。

「優ちゃん、嘘つかないで答えて」

「どうしたの?」

「──高岡ちゃんのこと、好き?」

 優は思わず噴いた。

「え、その話まだ生きてたの?」

 友里は優に背中を預けている今がチャンスだと思った。きっとさっきの写真みたいにバカな顔をして、(優ちゃんが大好き)という顔を向けてしまうから、また告白する前にそれを聞いておこうと思った。

「だって!…いつもは、…ふたりきりで、でかけるんだよ、遊園地!いつもの、そこに、高岡ちゃんがきたら、好きな子だから、わたしに紹介したかったのかなーとか、考えちゃうよ!」


 友里の考えが優には全くわからなかったので、優はポカンとした。あれだけ友里のためだと…──(言ってないな?)優は素直に謝った。

「わだかまりがありそうだったから、橋渡しをしたくて…ちょっと高岡ちゃんにしつこくしちゃった」

 素直に言ってみる。友里は優に心配されていたことにようやく気付いて、小学生の頃の忘れ物を届けてもらったような気持ちになった。今なら、もっと上手にお別れができるだろうけれど、お別れをしなかったからこそ生まれる関係もある。人生はひとつずつは小さくても、特別な出来事の積み重ねで出来ている。すべてが今の友里になるための、必要な出来事だ。どれもなかったことにはできない。

「……うん、今なら、色々お話しできると思うよ」

 優が、友里に過去を取り戻させようとしているという高岡の言葉は、ほとんど当たってると友里は確信した。もしかして、優は今の友里より、小学生の頃の、川に投げ出される前の友里に、逢いたいのかもしれない……。友里はゾクリとした。


「でも、怪我する前になんて、絶対戻れないんだからね」

「え?」

「なんでもない!それならそうと、相談をして欲しい!ホウレンソウよ、報告、連絡、相談!」

「──ハイ」


 友里が叫ぶと、優は素直に良い返事をした。小学生のように身を小さくして友里の背中に頭をもたれかかる。(コンパクトボディ…かわいい)と一瞬思ってしまう。ポンッとメッセージが来て友里は自分のスマホに目を落とした。大切な話をしてるので、後にしようとしたが部長だったので清掃のバイトの件かなと思って、優に謝ってからそれを見た。


【キスしてみたら?相手もさすがにわかるんじゃない?】


 かあああと、顔前に火花がとんだ気がした。友里は「そういうのができてたら!苦労しないです!」スマホに叫んだ。

 音声アシストが、御用件をどうぞと開いて言うので、「今じゃない!」と言った。


「どうしたの?」


 急にバタバタした友里に友里の椅子がわりになっていた優が心配そうにスマホをのぞき込んできたので、あわてて胸に押し当てて隠した。

 これは恋なのか、性欲なのか、独占欲なのか、推し欲なのか…。友里だけでなく、優がどう思っているかも、問題になってくる。

感情があっという間にショートして、わからなくなって、優とのことだから、人生で一番相談して、一番たよりになる本人に、相談するわけにも行かず、へなへなになりながら、優を見つめるしかなかった。


(これが、片思いってこと!?こ、こわあ……)


 完全に自覚してしまった。友里はバクバクと音を立てる心臓の音がうるさくて、仕方なかった。


 おもいがけず、友里は希望通りの上目遣い+沈黙10秒技法になっていた。優の胸も高まり通しだったことは、友里が気付くわけもなかった。

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