番外編⑤ ホワイトデー

 ※すみませんかなり大幅に変更してます。

 

 

 中学生の卒業式まであと3日、優と友里はもうエスカレーター式の高校へ入学が決まっていたのでのんびりと、お互いの家に寝泊まりしたり、春休みの浮かれぶりだ。

 優は友里に、ホワイトデーのパーティをするので、家に寄っていってくれますか?と招待して、友里もそれにもろ手を挙げてOK!と答えた。

「わたしもいっぱいお菓子持っていくね!卒業式前だけど、打ち上げもしちゃおう!!……あ、でもちょっと太ってきたから、気をつけなきゃ…」

 友里は自嘲気味に言った。

「なんで?可愛いよ、友里ちゃん」

 優は全く分からないというように首をかしげた。その仕草の優は美しいので、友里は優がそういうならいいか!とお花畑になってしまう。

 お互いに15歳で、もう身長差は15センチあった。


 友里が小さい黄色い花束を持っていたので、優は気になって問いかけた。

「あ~生徒会の子が、ホワイトデーのお返しに、って。友里先輩大好きです!だって可愛いね」

「ふうん…嫉妬しちゃうな~」

 友里は花言葉を知らない。優には花言葉がわかるため、言葉は真実だ。ラナンキュラスは「あなたは魅力に満ちている」だしブルースター「幸福な愛」だし、マリーゴールドも「永遠の愛」だしカスミソウも「無垢の愛」だ。ちょっときもいくらいだ。


「え、優ちゃん今のおめめ可愛い、キッとして!そんな感じもいい!小悪魔!!きゃわわわ!!!」

 友里は通常運転だったが、優は友里が他の人間に奪われるのではないかと気が気でなかった。


 友里が自分を好きになるのはおかしいと思うのに、奪われることが怖いなんて、困ったものだった。


(どうしてこんなに友里ちゃんが好きなんだろう)


「優ちゃん」

 名前を呼ばれたので、そちらを見ると、友里はにっこりした。「呼んだだけ!」というので優は可愛さで眩暈がした。

「かわいい服に着替えてから参戦していい?優ちゃんも可愛い服に着替えて待っててね」

 まだ、友里の「優・淑女計画」を知らない優は、(かわいいって言ってもモノトーンの服しかないな)とぼんやり思った。

「なんなら、わたしが用意するし…!」

 友里がなにか企んでいるかのように言った。

「いいよ、大丈夫。タキシード着るんだ、今日は」

「持ってるの!?みたいみたい!!」

「友里ちゃんもドレスが良いかも」

「へ??」


 2人は、電車に乗り、家までの岐路を急いだ。


 駒井家のホワイトデーは、駒井家の男たちが全員、母と優におもてなしをする。今年の優はしかし、なぜか、タキシードを着てエスコートする側になっていた。

「お父さんの若い頃にそっくり…♡」

 優の母は優に見とれた後、父にそっと寄り添った。父の思惑だった。まあ仕立ては良いので、優はなにも思わずタキシードを着ている。

「え、優ちゃんのほうが可愛いですけど」

 黄色の精一杯のドレス風ワンピースにパニエを合わせている友里は失礼なことを思った。けれど受け取ったスパークリングのぶどうジュースが美味しかったので、そちらに夢中になってしまう。

 駒井家の家は壁紙からソファーから、ギラギラに飾り付けられ、まるでホストクラブのような内装になっていた。

「こんなに豪華と思わなかった」

「年々豪華になるよね」

 優は、恐縮している友里に、そう言ってはにかんだ。あまりの可愛さに、友里は「ぎゃ!」と言って目を押さえた。

「目がつぶれる…」

「なにそれ…どういうことなの…」

 優が戸惑う。友里は優のタキシード姿がどんなに美しいか、早口で話し出しそうになったが、駒井家のみなさんがいるのでぐっとこらえた。

 出てくる料理はフルコースで、友里の分まであることに、駒井家は誰も疑問に思わなかった。当然、友里も参加すると思っていたので、全員が友里にプレゼントを贈った。

「なんか…申し訳ないよ…普通の…ちっちゃいチョコを渡しただけなのに」

 という友里15歳に、駒井家は微笑んだ。

「かわいい妹だからね」という長兄、「いつも元気をもらっているよ」という駒井・父。「ありがとう」という次男、「これからもよろしくね」という三男に「友里ちゃんは、わたしのだよ」とすかさず優が言った。


「そろそろわたしの部屋にいこうよ、友里ちゃん」

 食事もプレゼントも済んで、優に促された友里は、ぺこりと皆さんに挨拶して、優の部屋へ行った。

「なんか緊張したあ~~」

「今日のホスト風ホワイトデーは父の企画だったから、お金も湯水のようで…派手だったねエ」

 優はなんでもないことのように、タキシードのネクタイをほどきながら言った。

「あ…着替えていい?」

 友里に一度問う。その仕草があまりにも色っぽくて、かわいくて、友里は顔を赤くして「どうぞどうぞ!!」と言った。もうさんざん写真は撮ったので、今更個人撮影はよくない気がしたが、着替える前にもう一回くらい写真を撮りたかったけれど、優が着替えるのなら仕方ないと血の涙をのんだ。


「友里ちゃん」

「はい…!」

「全部口に出てる」

 ネクタイの緩んだ状態の優が、くすくす笑いながら、友里に覆いかぶさるようにして言った。

「かわいい?」

「うん…最高…もっとよく見ていい?」

「恥ずかしいけど、──いいよ」

 2人は見つめ合う。友里は、優の全てを余すとこなく見ようとしている。優は心臓がドキドキした。

「ところで、これは…カベドン…!?」

「え、なにそれ…」

 優が首をかしげる。小さな鳥さんみたいだな、と友里はメロメロした。


「楽しいホワイトデーだった!!!」

「それはよかった…あ、これ、わたしから」

「あ!わたしも!!はい」


 お互いに小さいプレゼントを渡しあった。

 2人だけでプレゼント交換をしたくて、居間に持っていかなかった。


「うわ~かわいい缶のお菓子だ!うれしい!!」

「友里ちゃんのタオルも可愛い、名前、刺繍がしてある…すごいね」

 実は刺繍は友里が施したものだが、優にお裁縫が趣味なのを内緒にしているので、友里ははにかんで黙った。

「大事にするね」とお互いに声が揃ってしまい、笑いあった。


「高校に行ってからも、よろしくね」

「うん、仲良くしてください」


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