番外編④ 駒井家のこと
妹の話をするとき、兄は必ず「大きな子です」という。立派で優秀で、みんなのアイドル。
彗にとっては、優は生まれたてのあかちゃんの頃のイメージのままだ。家に初めて来た、あの日。9歳の自分の指を、小さな手が握ってくれた。あの日のイメージのまま。
2番目の兄なので、
3番目は、
彗の目から見ても、兄弟全員顔がよく、長身だ。両親ともに純日本人なのだが、九州出身のせいかなぜか彫が深い。祖母も純日本人なのだが、青い目をしていた。どこか異国の風体なのは、そういう不思議な血脈のせいかもしれない。
「これ」
優が、かわいいラッピングを突き出してきて、彗は可愛く小首をかしげた。
「なに?」
「友里ちゃんが、兄にって」
「えーなんだろう!かわいいね」
「かわいいだろ、競歩の特訓のお礼だって。あくまでそれだけだから、変なこと考えないでよ」
冷たい声で優にいわれても、兄は優のことが大好きなので、思春期かわいい!と思うだけだった。
「俺の好きなキャラメルじゃん、やったー」
「あ、やっぱそこの店の、すきだったか、よかった」
後は、競技用の汗を良く吸い取るタオルが入っていた。2人の気遣いに、感謝をする。物がもらいたくて教えたわけではなく、素直にマラソンが好きなだけなのにな、と。
「あと、この前、スマホありがと」
優が素直にお礼を言うのなんて、優が5歳の頃に人参を食べてあげた時に「にーたん、ありあと!」って言って以来じゃないか?!彗はジーンとして、どういたしまして、といい笑顔で言った。
「彗にいみたいに、かわいい笑顔マスターしたいな…」
優がぽそりと、彗がいるソファの背面に腰を掛けて、言った。
「えー、優も充分かわいいよ」
「兄にそう思ってもらえるのはうれしいけども」
全体的に作りがぽてっと垂れてて、かわいらしい彗に比べて、優ははっきりしすぎている。
「タヌキとキツネってかんじ」
「おれがタヌキ?」
「そうそう、彗がタヌキ。わたし譲り」
母親が参戦してきた。
「優はホント、お父さんそっくりでかっこいいわ」
1,000,000回言われた言葉を聞いて、優は前髪を横に流して、「フ」と不敵に笑った。母親に教えられた、父親の真似ポーズだ。「きゃー!」と母親が言う。
そんなふうに遊びつつも、友里から言われる「かわいい」は何万回聞いても飽きないのに、どうしてこんなにも違うのだろうと、思っていた。
「優はかわいいって言われた方が嬉しいんだろうから、母さんも気を付けてあげてよ」
「あら、それは失礼…!なんにせよ、全員可愛いですから、私から見たら」
母は乾燥機にかかっている洗濯ものを片付けに、離脱した。
「彗にい、なんだよ、かわいいほうが嬉しいって」
「え、ちがった?」
「ち……違わないけど」
「かわいいな、優は。また遊びにおいでって、友里ちゃんにも行っておくんだよ」
「う…んまあ、そうだね、気が向いたら」
「なんだ、優は友里ちゃんを独り占めする気だな?」
「わるい!?これでも、必死なんだよ」
優は彗には、わりと素直に感情を露わにしてしまう。それは彗の雰囲気が、どこか優しくて、すべてを包み込んでくれそうで、安心してしまうからだった。彗は否定しない。家族だから、それだけじゃなくて。
友里のことも、彗に似ていると最初に思っていたほどだった。
彗は未だに、赤ちゃんを眺めるように、かわいいな、大きくなるといいな、幸せでいてほしいなと、優をながめてしまうのだった。
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