最終話 たままちの太腿

放課後、二人で教室を独占するのが好きだ。

 

顔がわからなくなるくらい暗くなっても居残っているのが好きだ。



あの日、暗くなった教室でまた玉町を逃してしまった。



いつも、目の前にいるのにいつの間にかいなくなっている。




でも、今はいるのだからいいじゃないか。



夕焼けの教室に置かれている物はすべて濃いオレンジと黒のニ色に染まっている。



今日は膝枕をしたいと言われた。



随分と能動的な提案だ、悪くない。



玉町の腿は温かい

男にしては柔らかすぎるくらいだし何よりとても小さかった


すごく安心した


だから気が緩んだんだろう




「今日くらい甘えたっていいよなあ」




頬の下にあった体温の感覚が生暖かさを残して消えた


支えを失った頭蓋がリノリウムの床にぶつかり派手に音を立てる


また消えたのかと苛立ったが


窓辺の方から影が伸びているのが見えて移動したんだと、


どうやったのかはわからないが移動したんだと思った。



玉町は窓に向かって指を差していた。



逆光で目元はよく見えないがぽってりした唇が小さく開くのがわかった


影よりも深く黒い小さな空洞がゆっくりと形を変える




あなたが望めば私は現れるからこれは最後の言葉にならないかもしれないけど



外に出たとき


子供を見つけたら 逃げて




そう言うと玉町の輪郭は水に垂らされた血液のように曖昧に揺らいで消えてしまった。


それきり玉町は現れなくなった。







外を歩いていると


遠くで学生たちの声が聞こえた



私は耳を塞いで逃げるようにその場から去った。

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たままち @murasaki_umagoyashi

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