移動手段ってホント大事なんですよ。

くすのきさくら

第1話 見えるものみえないもの。

……ガタンガタン―—ガタンガタン……。

カンカンカンカンカンカン――。


今日も定刻通り電車は田園風景の中を走っている。


両側が田んぼでは、そろそろ田植えが始まるのか各田んぼに水が溜まりだしている。そのうちカエルの大合唱が始まりそうだ。

でも今のところはまだ早いのでカエルは居ないみたいだ。おたまじゃくしなら……どうなんだろうか?俺はあまりそういうのが詳しくないのでわからないが。

わかることと言えば――今はまだ電車の走行音や踏切の音ばかりだ。って俺は電車に乗っているのだから走行音が聞こえてないとおかしいな。そして不定期に踏切の音が参加してくるくらいだ。


現在俺はじいちゃんばあちゃんに会いに行くため電車移動中だある。


1年に2回、3回は行くようにしている。会いに行ってやらないと、自由奔放に動き回っているかもしれないからな。とくにじいちゃんが自由だから。元気すぎるのも困ったもんだよ。


俺は普段都市部で生活しているため。1両編成の電車に乗る機会はじいちゃんばあちゃんのところに行く時だけだ。いつもは10両編成とかだからな。こっちにくると……なんか落ち着くというか。あれだ。ざわざわがないなぁー。と。普段は満員電車やらやらで、疲れに行っているようなものだが。こちらは――ゆったりしている。時間ものんびり流れている気がする。

電車の揺れを楽しむ余裕すらあるな。普段なら早く着け。苦しい。降りたい。外の空気――だからな。


ちなみに今の車内は普通に範囲では――4……5人か。まあいつも来るときは午前中の通勤通学が落ち着いた時間だからな。これが普通だろう。朝晩はもう少し乗っていたかと思うがね。ってか今日はあたりの車両らしい。


この鉄道には1両編成が2本走っているのだが。第1編成というのかはわからないが。1本。昔から走り続けている車両がある。

車内の床などは木で出来ている。座席は所々ボロがあるが――それが良い味を出している。また今の電車はここまで窓を開けれる車両は少ないのではないだろうか?この第1編成だけは全開に窓を開けられる。

あれだ。見送りに来た人に対して身を乗り出して手を振るというのか。うん。まあいろいろ出来ちゃいそうな車両である。

こちらへと来るたびにまだこの車両走ってるよ。元気だな。まあできればずっと走っていてほしいな。と思いつつ。個人的にはこの電車が来たらあたりだと思っている。

いろいろと経験できないことが経験できるからな。この経験をできる電車は――そうはないだろう。他にも走っているのかもしれないが――俺はここしか知らないんでね。


そんなことを思っている電車は俺が降りる予定の駅へとまもなく到着する。


降りるためには運転手さんのいる一番前のドアに行かないと行けないので、俺は席を立ち。周りに気を付けつつ。ドアのところへと移動した。俺が一番前のドアに到着すると同時くらいに電車は駅に到着した。

そして俺を含めて――数人のお客が駅へと降りた。


少しぶりに帰ってきた。である。

ボロの駅舎は変わってないし。錆びている踏切も変わっていない。周りを見渡すと――うん。緑ばかりだ。ここは自然がいっぱいというところだ。俺は懐かしく思いつつ駅の外へと向かうためにホームを歩く。


すると、俺の前を歩く女性とその隣を歩く小学校の低学年くらいの女の子の会話が聞こえてきた。どうやら親子みたいだ。


「着いたー。今日もたくさん人乗ってたね」


女の子がそんなことを言っていた。すると――。


「たくさんは居なかったわよ?」


お母さんと思われる人は、女の子を見つつ不思議そうな感じで言っていた。


「居たよ?立ってる人も居たじゃん」

「……?」

「ほら、おじいさんやおばあさん。男の人居たじゃん」

「—―」


チラッと見えたお母さんの横顔は完全に困り顔という感じだった。

俺はたまにこういう光景を見てきたので、まただ。という感じでちょっと前を歩く親子の話を聞いていた。

その後も駅舎を出るまで女の子の「たくさんお客さん居たよね?」という声が聞こえていたが――お母さんは呆れ顔というのか「そうね」という返事に途中から変わっていた。すると女の子は満足したのか。話を変えて――。


「今日はパパちゃんと居るかなー?」

「居るわよ。さあ早く行きましょう」

「はーい」


親子は駅前に止まっていたタクシーへと乗り込んでいった。

親子が乗り込んだタクシーはすぐに出て行った。親子が居なくなると――駅の周りは静かになった。

一緒に降りた他の――は、もう帰ったのかな?ってか、あの親子実は同じ方向に向かっていたり。と俺は思いつつ――もうタクシーいないじゃん!と俺はスマホを操作しつつ……。


「――まあ、わからない……とね。会話がおかしくなっちゃうか」


そんなことをつぶやきつつ。俺はタクシー会社に電話したら――45分くらい駅で待機をすることになったのだった。


何たるこっただよ。いつもなら駅前に止まっているか。居なくても呼んだらすぐ来てくれるのに。いや歩いて行くとね。山登りになるんだよ。うん。それに帰りもあるからね。基本タクシーで行くんだよ。


仕方ないので俺は駅舎の中にあるベンチに座る。

先ほども言ったが電車が着いてしばらく経過しているので範囲には人影はない。


まあド田舎の駅ではよくあることだ。

近くにコンビニとかそういう物もないので俺はベンチに座りスマホをいじりつつタクシーを待った。


すると――。


「—―誰か待っているんですか?」


そんな声が聞こえてきた。


「—―うん?あー、はい。タクシーが居なくて」

「あー、今日は朝から数人利用してましたからね」


俺が声の方を見ると、駅の職員だろうか。制服を着た年配の男性が俺の横に座った。

どうやら俺しか居ない為。話し相手にでもと出てきてくれたらしい。


「今日何かありましたっけ?電車も人多かったですよね?」

「あなたが乗ってきた方はまだ空いてましたよ?」

「あー、あれで少なかったか」

「反対の方は朝すごかったですよ。今日はあっちで集まりがあるみたいですよ」

「……あー、なるほど。って、俺のじいちゃんも交じってそう」

「乗って行きましたよ?ルンルンで」

「……じゃあばあちゃんしか居ないじゃん」


まあちょっと予想していたが。じいちゃん不在だった。仕方ないばあちゃんにだけ会っていくか。ということになったのだった。


「夕方には帰って来ると思いますけどね」

「夕方かー。ちょっと無理だな。まあまた来るか。ってか。せっかくだから聞きたいんですが。なんで古い車両ばかりみんな乗るんですかね?」


俺は時間つぶしになるだろうとそんなことを聞いてみた。


「そりゃ新しい車両は――でしてね。あの車両だけだが。2つの役目をできる最後の車両ですから」

「ってことはその車両が無くなると――」

「こっちの人は出かけられなくなりますね」

「—―そうなるとじいちゃんがちゃんといつ来ても居る気がするんだが――」

「でもそれは困りますからね」

「でも電車そろそろ年数的に――どうなんですか?」

「大丈夫ですよ。こっそり。整備もさせてもらってますから」

「……あの車両。守られているから長持ちなのか。でもなんで新しいのはダメ?なんですか?」

「secret」


俺が聞くと年配の男性が突然ポーズをしていた。


「……なんで突然ポーズをしつつなのか。それもちょっとカッコつけて」

「やってみたかったんですよ」

「そっちは楽しそうで」


すると遠くから電車の走行音と。踏切の鳴る音が聞こえてきた。


「あっ。電車戻ってきましたね」

「次は――古い方ですか?」

「そうですね。私も乗る予定です」

「そうなんですか。では、お見送りでも」


時間のあった俺は年配の男性とともにホームへと。

するとそれと同時に先ほど俺が乗ってきた電車が駅へと滑り込んできた。


車内は範囲では、2人のお客さんだった。いつも通りである。

そこに先ほどまで俺と話していた年配の男性が乗り込み――が見える範囲では――11人となった。うん。まあいつも通りだな。


俺は年配の男性を見送ると。発車間際の電車にボソッと……。


「この電車は利用客が多いことに気がついているのかね」


そんなことをつぶやいてみると。


「—―もちろん知ってますよ。それが役目ですから」

「こりゃ失敬って…………まさかの返事が来たよ」


うん。今日一番の驚きだったな。まさか――そもそもだったか。


「……俺—―なんか危ない方に片足突っ込んでるんじゃないよな?車両ともなのかよ」

「……」

「あれ?気のせい」

「……」

「だよな。電車が話すわけないよな」

「おばあちゃんが待ってますよ」

「……把握済みか。ってやっぱり話したよ。って、まあこれからも――頑張ってくれ。2つの役目を」


俺がつぶやくと1両編成の電車は元気に駅を出発していった。


「ありがとう」


最後にそんなことを言いながら。


その後俺が駅前の方を確認しに戻ると――ちょうどタクシーがやって来た。そしてタクシーに乗り込もうとしたとき。あることを思い出した俺だった。


「あっ、花買わないと。すみません。どこでもいいんで花。売っているところ寄ってください」


うん。俺手ぶらだったよ。

そういえば電車に乗る前に買おうとしていて忘れていた。である。

さすがに手ぶらはね。

なので俺はタクシーの運転手さんにそんなお願いをしながらタクシーへと乗り込んだのだった。

果たして――店があるのだろうか。と、ちょっと心配だったがね。


――あなたの周りを走っている鉄道も、もしかしたらこの鉄道みたいに複数の役目を担っているかもしれない。一部人しか気が付かないかもだけどね。

もし見える側だったら――そっと席を譲ってあげよう。座りたいかもだからね。


(おわり)

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