第2話

ルルはゆりかごの中で目を覚ました


(また、この夢)


 記憶喪失のルルはとある夢をよく見る。記憶を失ってからしばらく経ち、ようやく回数が減ってきていたが、まだたまにみる。


 二度寝したいが、目覚めが悪かったせいかねれそうにない。しかたなく寝間着を脱ぎ、服を着替える。


 首元に大きなリボンがついた白ブラウスにベルトと濃い群青色のフレアパンツ。広がりすぎていない裾がいい。


 いつものピアスを片耳につけ、迷った末、抑えめの金色をしたブレスレットもつけた。

 すると、扉がノックされた。


 「はい」


 私の部屋をノックするのは一人しかいない。案の定、キャラメル色の扉の先にはミスタがいた。


 「おはよう、ルル」


 爽やかな笑顔につられて私も笑う



 「おはよう、ミスター」


 「今日は少し早かったね。また夢でも見たのかい?」



 この世界で夢を見るのは少し珍しいことで、血筋か、相当記憶に残ることがあったか、薬を飲むかさえしなければ、夜はぐっすりと眠れる。



 「まあね。今日なんかあるんだっけ?」



 歩き出したミスターの隣をスピードを合わせて歩く。ミスターは普段全然歩かないから、歩くときはとてもゆっくりだ。



 「そうだね…今日は、とある人に会ってもらおうと思ってるよ」


 「えっ…」



 私の絶句を別の意味に取ったのか、ミスターはきれいな眉をハの字にさせて、慌てて弁明した。



 「心配しなくてもいいよ、ちょっとだけものの言い方が厳しいかもしれないけど、ルルを傷つけるようなことはさせないから。」


 「もちろん、ミスターが紹介する人だもん。ちゃんとわかってるよ」


 「うっ、うーん…」



 ミスターがなにか少し困っているうちに、駐車場についた。開けた場所にいくつかの卵がおいてある。


 定番のモノトーンや赤、オレンジから、パステルカラーやゴージャスな金色や銀色まである。


 私のお気に入りはシックな濃い緑、千歳緑ちとせみどりの卵だ。


 その中でも、上下と背中と足元はガッチリ支えられてるのに、左右と頭上、胸より上は何もない、オープンエッグ(というらしい)機種にハマっている。


 二人乗りのものにミスターとのり、今日は何を食べようかと考えながら行き先を告げた。


 「ヒノキの間」


 ふっと音なく、でもすばやく卵動き出す。特に修正を加えていないから、なかなか飛ばしている。風がとても気持ちいい。


 しばらく風を楽しんでいると、ミスターがふと我に返って行き先を訂正した。


 「いや、モミジの間で頼む」

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