大樹の下でまた会いましょう
@Kuro-moti
第1話
オレンジ色の光の中に自分の影が長く伸びている。
いくら歩いても、その先には追いつけない。
ふと、地面を凝視していた顔を上げた。森の中に階段があった。
足が自然とそこに向かい、1段、また1段と登っていく。まるで何かに惹きつけられるみたいに。
突然視界が開けた。
崖のギリギリのところに立つ真っ赤な鳥居。よく見ると紙垂が切れている。不気味だ
「おい」
凛とした、空気が澄むような声がした。
声の方に向くと、そこには一人の女性…いや、男性?
人間離れした整った顔立ち、ひとつに結ばれ足元まで流れる絹のような髪の毛、ピンと伸びた背筋。
周囲に漂う空気は穏やかながら冷たく、自然と背筋が伸びる
お賽銭箱の前で佇む姿はまるで神聖ななにかのようで。
どこなく湧いてくる懐かしさに突き動かされて階段の前まで歩いていく。
少し筋張った白い手が私に向かって突き出された。
「?」
「私についてくれば、ここから出られるぞ」
自分が息を吸う音が聞こえた。
色がはっきりとしはじめた。しばらくまた失っていた光が、色が、感覚が。
その人に降り注ぐ光が眩しくなり、木々の緑がもっと濃くなり、今まで存在にすら気づかなかった池の水面がきらりと揺らめく。
頬に温かいものが流れた。
同時に感情も溢れた。
息が荒くなっていく。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。逃げたい…
その人の手を取った
「お願い、連れてって!!」
自分の汚い声が澄んだ空気を穢したように感じる。
その人は頷いて、私を体ごと階段の上に引き上げた。浮遊感が私を襲う。
はっとしたときには、足がちゃんと地面についていた。
きれいな人が口を開いた。けれどその声を遮るように、後ろの方からザッと砂利を踏みしめる音が鳴る
「まて!ついてっちゃだめだ!」
鳥居の下に、袴を着た少年が見開いた目でこちらを睨んできていた。
「そいつは、なにか…なにか、異質なものだよ」
怪訝そうに彼を見る私の視線に気づいたのか、少年は少し落ち着いて話し始める。
「えっと、俺、ソウスケ。少し前から変な匂いがすると思ってお前をつけてたんだよ。」
ついていっちゃだめだ。心が痛くなるほど彼の目がそう強く訴えてくる。
突然、背中に手を触れた。
ふわっと白い絹に体が収まる。
「この子はもうこちらに来た。自分で選んだんだよ」
ゾワリと鳥肌が一斉にたつ。温度が氷点下まで下がった気がした。
もう、後戻りはできない。2人の間の雰囲気が私にそう伝えた。
ぐるりと視界が歪んだ。
直前、たぬきのようなくりくりした目をした男の子が恐怖に染まった顔でぶるぶる震えているように見えた。
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