掻き出しクン(二刀流)

しょうわな人

第1話 決着の時

 今、僕は大木に立て掛けられたハシゴを登っている。その高さはニ.五メートル。十歳になった僕はヘッドライトを装着して、腰に五本の針金をぶら下げて、一段一段を確実に慎重に登っていた。


 今は初夏の六月頭で、僕はこの日の為に父さんと特訓を重ねた。去年、失敗したヤツとの決着を着ける為に。


 特訓は困難を極めた。先ず僕はそんなに器用じゃないから、繊細な手指の動きを必要とする技の取得に時間がかかった。更に、手指の感覚を養う為に目隠しをしての特訓。父さんがやすやすとやってのける事を僕は中々習得する事が出来なかった。

 けれども僕は諦めなかった。それぐらい悔しい気持ちが高かったからだ。

 去年の夏は失敗してしまって、父さんに尻拭いをしてもらった屈辱を思い出し、特訓が辛くても僕は頑張ったんだ。


 そして決着を着ける時がやって来た。ハシゴは先に父さんが外れない様に木に固定してくれている。そして、ハシゴの段に引っかかる様に改造してくれた特殊スニーカーを履いて僕は登る。下で父さんが見守ってくれている。


 僕は額から滑り落ちる汗をものともせずに登り切り、木のうろを一瞬だけ照らして中を確認した。


 居た! ヤツがうろの奥で少し身じろぎしたのを確認した僕はライトを消す。特訓した時の父さんの言葉を思い出す。


いか、ヤツは明かりがある場所には出たがらない。だから一瞬だけ照らしてうろの形、奥行き、ヤツの位置を素早く確認するんだ。それから腰の針金から最適な物を選んで事にかかれ』


 僕は手探りで腰にぶら下げた針金から二本を選び両手に持つ。片方は先が五ミリ直角に曲がったもの。もう片方は少し曲がって、先を八ミリ直角に曲がったものを選んだ。


 一瞬で確認したうろの中に先ずは八ミリの方を入れた。そしてヤツの位置を確認して、ヤツのお尻の方に曲がった先を持って行く。まだ、お尻をおさない。


 そして、五ミリの方をヤツの大顎に引っ掛ける。そして、ヤツが大顎で挟もうとするが、上手く突起に引っ掛ける事に成功した僕は繊細に優しく、だけど大胆に顎を引っ張る。

 ヤツは引っ張られまいと後ろに下がろうとする。そこでお尻に回した針金で、お尻を押してやる。するとヤツは嫌がり少し前に出てくる。


 後は根比べでもある。何回も同じ攻防を繰り返し、ヤツの大顎の先端がうろから出てくる。去年はここで焦って大顎をつまもうとして針金を外して失敗した。僕は二本の針金を駆使してもっと、体の半分が出てくるまで慎重に両手を動かす。


 そして、遂にその瞬間がやって来た。疲れたヤツはうろから一気に出て、逃げ出そうとしたのだ。針金から伝わる感触でそれを察知した僕は針金から手を外してライトを点けてヤツの姿を確認。そして、逃げる為に木から落ちようとしているヤツを無事に確保した。


「ヤッタッ! やったよ、父さん!!」


 僕は遂に【掻き出しクン】二刀流をマスターした。僕は手にしたオオクワガタを持って父さんを見た。下では父さんが満足そうに微笑んでいた。

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掻き出しクン(二刀流) しょうわな人 @Chou03

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