プラネテスの魔女と御子‐星を渡る舟Ⅱ‐

本代末

序章

第1話:再び、旅の始まり

 蒼色と金色、二人の少女が何も無い大地に降り立つ。


「……不思議な眺めね」

「うん。こういう星があるって知ってはいたけど、実際に見るとやっぱり違うね」


 少女達の足元の地面は、硝子のように透明だった。


「星の終わりってどこもこうなのかしら?」


「生き物が暮らすための大地ならそうなんじゃないかな」


 この地における現時刻は深夜で本来光源など無いはずだが、近い未来に終焉を迎えようとしている星の核から光が溢れており、表層の全てが淡く照らされている。


 地平の果てまで、文字通りに何も無い。

 今、この地に存在しているのは異物たる放浪者の少女二人だけだった。


「あとどのくらいもつかわかる? 私達の身が危ないって感じはしないんだけど」


「んー、さすがにもう何年かは平気なんじゃない? 星の寿命って長いし」


「なら当分はこのままなわけね。だったらメモリーだけ写して次に行く?」


「アニエスに気になることが無いならそれでいいよ」


 蒼色の少女――アニエスが肩をすくめる。


「気になる事って言ってもね……地面に凹凸があるだけで、水の一滴も無いじゃない」


「空気も無いしねー。ボクたちが魔法を使えない人だったら死んじゃってるよ」


「フィーは息できないくらいじゃ死なないでしょ。第一、そんな簡単な魔法も使えないやつがどうやってこんな星にやって来るのよ」


 少女達は改めて辺りを見回す。やって来た直後からわかっていた事だが、この星はとても大きい。二人が暮らしていた星と比べても広大なので、真っ直ぐ目的地へ向かったとしてもそれなりの時間を要するだろう。


 二人の思考に、少し前までこうして離れる事になると想像もしていなかった故郷の星の風景が浮かぶ。かつてはこの星も活気に富み、生命に満ちていたのだろうかという感傷もよぎった。


 金色の少女――フィーネがぽつりとつぶやく。


「生き物がいない星って、なんだかさびしいね」


「……意外。フィーもそんな風に思う時があるんだ?」


「うわ、なんかヒドいこと言われた気がする」


「だってそうでしょ。普段生き物の区別とかしないし、どうでもよさそうじゃない」


「だからって生き物が嫌いなわけじゃないから。ボクでも何も無い星はさびしいって感じるよ」


 親友同士の少女達の視座は大きく異なる。

 同じ末路を目にしても、抱いた感慨は違った。

 寂しさという感情一つ取っても、その由来や行き着く先が遠い。


 二人とも、十年と少しの付き合いを経て既にそれを理解していた。


 それでも、共に歩み旅する事は出来る。


「そろそろ行こうよ、アニエス。広いから飛んだ方がいいよね?」


「うん。とりあえず孔のところまでよろしく、フィー」


 少女達が目指すのは、星の中枢。そこにはこの一つの世界の全てが記されている。


 初めて踏み出した異星での束の間の冒険だ。



 ――これは、二人の少女が当ても無くそらを廻る、余白を埋めるための物語。


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