第13話 


 翌日アイビーは留置場で蓮と面会をしていた。


「酷い顔だな」


 ガラス越しに見る蓮の顔はとても見れたものではなかった。


「俺、なんて謝ったらいいか‥‥」


「結局、気付かないままだったな」


「なんの事?」


「蓮、うちら昔会ってんだよ。覚えてないか?」


「昔っていつの事?」


「分かる訳ねーよな。お互い随分変わったからな」


「ごめん、思い出せない」


「小学校の頃、いじめられてたとこをお前が助けてくれたんだよ」


「俺が?アイビーの事を?きっと人違いだよ、だってこんなヘタレだよ」


「昔の自分は体も小さくて、なよなよしてたのが原因でよくイジメられてたんだ、そんな時、たまたま通りがかったお前が、大人呼んで来てくれたんだよ」


「俺は昔から自分では何も出来ないやつだったんだな」


「その後、その辺に落ちてた石を渡してきて『今度あいつらが来たらこれ投げてやれって』その時のお前がすごくかっこよく見えてさ、このままじゃダメだって思った」


「あっ、もしかして机に置いてた石って」


 蓮は何か思い出したようだ。


「うん、お前からもらった石。馬鹿みたいだけど、自分にとっては宝物みたいな物だからな」


「気付かなかった」


「お前はただのきっかけにすぎないけどな。でも自分は変われた」

 

「こんな俺でも誰かの人生に少しは登場出来たんだな」


「ラットでお前に会った時すぐ分かったよ。運命だとさえ思った。だから今度はこっちが助けないとって思った」


「それなのに、俺‥‥」


「でも少し甘やかし過ぎたな。お前はこれからも辛い事があればすぐ薬に頼るようになる。一生出られない、蟻地獄だ」


「アイビーの言う通りだよ。本当、情け無い」


「どのみちお前の人生だ、他人にどうする事も出来ない。これからも苦しんで過ごせ」


「酷い事言うんだね」


「でも、辛くて、苦しくなったら、薬に頼るんじゃなくて、連絡してこい。所長に言われてたからな、蓮の事頼むって」


「おじさん‥‥」


「お前のおかげで少々の事じゃ驚かなくなったからな、なんでも受け止めてやるよ。決めるのはお前だけどな」


「うん。本当、ありがとう‥‥」


 蓮は下を向いたまま声を殺して泣いていた。


「あっ、ちなみにお前は初恋だったんだよ」


「アイビーの?」


「うん」


「えっ?」


「お前が覚えてないのも当たり前だよな。改めて自己紹介でもするか。名前はユリ。か弱い女だよ」


「ごめん、そんな人知らない」


「おい!」


「ハハハッ!まぁどっちかと言うと華奢だし、抱きついた時の感じで女かなとは思ってたけど、まかさね」

 蓮は笑っていた。


「お前は笑ってる顔の方がずっとマシだよ」


「アイビーもね!」


 二人はまた会う事があるのかないのか、さよならを言わずに別れた。



「お疲れ様」


 外では潮田が待っていた。


「待っててくれなくてよかったのに」


「話は出来た?」


「はい、言いたい事も言ったし、なんか清々しい気分です!」


「それはよかった。じゃあ行こっか!」


「はい!」




 冷たい床に座りながら蓮は自分の人生について思い返していた。


 (ほんっとしょーもない人生だったな)


 

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ホオズキ___後編 @cakucaku

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