第12話
(あんずさんと話さないと)
「ただいま」
「蓮君!どこ行ってたの!」
あんずは泣きそうな顔で飛びついてきた。
「あんずさん‥‥」
「この前はごめん。私、蓮君いないとやだよ」
「とりあえず話そ?」
「うん」
蓮はあんずをソファに座らす。
「俺もいきなりいなくなってごめん」
「私のせいだよね。私の事嫌いになったんだよね」
あんずは涙をポロポロ流している。
「正直に教えてくれるよね?」
「うん」
あんずは涙を拭うと、ゆっくり話始めた。
「蓮君が見た人は私のお兄ちゃんなの」
「‥‥は?」
「買い物に付き合ってもらってたんだけど、途中で私の調子が悪くなって、休む為にホテルに入っただけなの」
「それなら家に帰ればよかったんじゃ?」
「家には蓮君がいると思ってたから、いきなりお兄ちゃん連れてきたら気まずいでしょ」
「‥‥そう」
蓮は開いた口が塞がらなかった。
(こんな言い訳が通じると思ってるんだな、がっかりだ)
「これで分かってくれたよね?もう出ていかないよね?」
「あんずさんって嘘ばっかりだね」
「嘘じゃないよ、本当だよ」
「信じたかったけど、もう無理だよ」
「なんで?本当だって言ってるじゃん!」
「もういいよ」
蓮は荷物をまとめ出て行った。
あんずの泣き声が玄関の外まで聞こえていた。
(なんで嘘つくのかな、本当の事言ってくれたら、理解してあげたのに‥‥)
蓮はその足であの男の所へ向かう。
「あれ?その荷物どうしたの?」
「ちょっと色々あって」
「いいよ。気が済むまでうちにいたら」
「ありがとうございます」
「そうだ、もっといいのあるよ!」
男はそう言って、違う薬を勧めてきた。
もう、何もかもどうでも良くなっていた蓮は、つい手を出してしまう。
蓮はしばらくするとモゾモゾと動き出す。
(‥‥‥。家帰ろっかな)
「帰ります」
「そう、またね!」
男は不気味な笑みを浮かべながら手を振る。
蓮はどうやって家まで帰ってきたのか分からない程、頭が空っぽになっていた。
(あーだるいなぁ。俺、なにやってんだろぅな‥‥)
蓮の目から涙が落ちる。
その日からというもの、蓮はすっかり薬漬けになってしまっていた。
数日後。
コンコンコン!
玄関を誰かが叩いている。
「蓮?いるか?」
(あっアイビーだ)
「いるよ」
小さな声で言う蓮。
ガチャッ
「鍵開いてんじゃん」
アイビーが入ってきた。
「お前ずっとスマホの電源切れてるぞ」
「あぁ、スマホ、どこやったっけな」
「調子悪いのか?」
「調子?良いよ、怖いくらいにね」
アイビーの顔が青ざめていくのが分かった。
「‥‥お前」
「なに?」
アイビーは突然蓮の部屋を荒らし始めた。
「アイビー、何やってんの、やめてよ」
蓮は気力なく呟く。
「お前、これ何だよ‥‥」
アイビーが何かを蓮に突き出す。
「知らない」
「知らないわけねーだろ、何回目だよ」
「知らない」
蓮はしらをきる。
「いい加減にしろよ‥‥!」
アイビーはそう言うと家を飛び出した。
(アイビー‥‥ごめん)
アイビーは気付くと潮田に電話していた。
「‥‥潮田さん」
「どうした?いつもの声じゃないけど」
「話、聞いてくれますか」
「とりあえず行くよ、今どこ」
「今は事務所の近くの土手を歩いてます」
「分かった」
電話を切ると、座って川を見つめるアイビー。
「いたいた!」
潮田が走ってくる。
「早いですね」
「事務所にいたからね。で、何かあったの?」
「蓮が‥‥」
「蓮君がどうしたの?」
「また薬に手出してた」
「え?」
「それも酷い顔で、目も死んでた」
「あちゃぁ。一回味覚えると、辛くなる度に手出しちゃうから仕方ないよ」
「仕方なくないですよ。蓮はちゃんとやめれてたんですから」
「やめれないよ。蓮君は一生、それと付き合っていかないといけない体になったんだから」
「ちゃんと見張っておかなかったのが悪いんだ。全部自分のせいだ」
「アイビー‥‥」
「もう‥‥限界だよ‥‥」
空を見上げるアイビーの目から涙がこぼれ落ちた。
それを見た潮田はアイビーを抱き寄せた。
「うわぁぁぁ!」
潮田の腕の中で泣き叫ぶアイビー。
「もう頑張らなくていいよ」
アイビーをなだめる潮田。
「俺もついていくから警察、行こ?」
黙って頷くアイビー。
二人は一緒に警察署に向かい、蓮やあんずの事、潮田が集めていた証拠を提出する。
後で分かった事は、蓮に近づいて薬を売ったやつは、あんずから情報をもらって近づいていたらしい。
潮田が証拠を提出した事で警察もやっと動き出し、あんずの親やその他の売人も捕まる事になった。
「よかったんですか、潮田さん」
「なにが?」
「あれだけ危険だって言ってたのに」
「あー、あれ?適当に言っただけだよ」
「は?」
「だってそうでも言わないとアイビー、どんどん突き進んでいくじゃん」
「はぁ」
「でもこれでよかったんじゃない?蓮君もしばらく少年院に入る事になるだろうし」
「はい」
「アイビーが責任感じる事なんて一つもないんだから、これからは自分の為に生きなよ」
「はい」
「なんか片付いたと思ったらお腹空いてきたな!」
「今日は自分に奢らせて下さい」
「わかった!」
二人はアイビーの行きつけの店で食事をする。
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