第10話
(なんでだよ、なんでいっつも俺ばっかりこんな目に合うんだよ)
蓮はあんずの家を飛び出し、一人フラフラと彷徨っていた。
(本当俺はヘタレで意気地なしのしょうもない男だ)
歩き疲れて路地で佇む蓮。
「ねぇねぇ、お兄さん?」
そこには知らない男が立っていた。
「俺の事、ですか?」
「そうそう、こんな所で一人なんかあったの?」
「あの‥‥誰ですか?」
「あぁ、僕はね、君の事をよーく知ってる人だよ」
「はい?俺はしらな‥‥」
その瞬間目の前が真っ暗になり、気付くと知らない部屋にいた。
(あっ俺、気を失ってたんだ。頭がふわふわする‥‥この感じどこかで‥‥)
蓮は感じた事のある感覚に気付いてしまった。自分が今何をしているか。
「おっ目が覚めた?どう?久しぶりの薬は。気持ちいいでしょ?」
「‥‥そうですね、さっきまであんなに嫌な気持ちだったのに今はもうどうでもよくなりました」
「蓮君だよね?辛い時はいつでもおいで」
しかし、蓮はハッとした。
(ダメだ、せっかくやめたのに!あんなに苦労して、みんなに迷惑もかけて)
「俺、帰ります。誰だか知らないけど、通報しますから」
「通報しちゃうと自分も捕まるけどいいのかなー?」
「いいです、それじゃあ」
(ハァ‥‥ハァ‥‥どうしよう‥‥動悸がすごくて上手く歩けない。それに、あいつの言う通りだ。今捕まるわけにいかない。アイビーに合わせる顔がない)
蓮はどうにか歩いて自分の家に帰ったが、そのまま玄関に倒れ込むように眠りについた。
翌朝、玄関で目を覚ました蓮。
(頭がボーッとする。体もだるいし)
(あんずさんと話をしないと。でも怖いなぁ、なんて言われるんだろう)
蓮はアイビーに電話をかける。
プルルルル
「うちこれる?」
「かかってくると思ってた、行くわ」
しばらくするとアイビーが来た。
「ごめん、忙しいのに」
「本当だよ、どうせ昨日の事だろ」
「うん、あの後あんずさんに問い詰めてみたんだけど、教えてくれなくて。言ったって俺は何も出来ないくせにって」
「大丈夫かよ、その子、情緒がおかしくないか?」
「おかしくはないんだけど、家庭の事で大変な思いしてるんだと思う」
「お前はお人好しなのかバカなのか。ただの浮気だろ」
「確かにあんずさんは可愛いから周りがほっておくわけないと思うよ、でもそんな感じじゃなかった」
「で、どうしろってんだよ」
「あんずさんの行動を調べてほしい」
「お前がしろよ、どうせ暇なんだから」
「怖いんだよ」
「はぁ、仕方ねぇなぁ。何か分かったら教えてやるよ」
「ありがとう」
「ったく、いつまでお前の世話させるつもりだよ」
アイビーは蓮の家を出ると、あんずの家に向かう。
アイビーが着くと、丁度あんずが家から出てきていた。
「やべっ」
アイビーは慌てて隠れる。
あんずは歩いてどこかに行っているようだ。アイビーが後からつける。
しばらく歩くと、あんずはカフェへと入っていく。
「大学行かねーのかよ」
あんずが座っていると、そこに知らない男がやってくる。
「あの女何股してんだよ」
イラつきながらも、近づき会話を聞くアイビー。
「ごめん待った?」
男が言った。
「ううん、今来たとこだよ」
あんずが答える。
「しっかし、本当あんずちゃんいつ見ても可愛いね」
「そんな事ないよー、でもありがと!」
「今日はゆっくり出来る?」
「今日もこの後講義があるから無理なんだ」
「そっか、まぁあんずちゃんとお茶出来るだけでもラッキーと思わないとな!」
「そう言ってもえると嬉しいな!」
男に笑みを向けるあんず。
「なんだこの会話、しょーもな」
アイビーは呆れていた。
「そうだ、あんずちゃん、あれ持ってきてくれた?」
「もちろんだよ!はい」
あんずがなにかをカバンから出して渡していた。
「助かるよ!いつもありがとうね」
「このくらいいつでも!」
「じゃあ俺、行くから、これで払っておいて」
男はそう言うと封筒を渡す。
「うん、またね!」
手を振るあんず。
あんずは封筒をカバンにしまいカフェを後にする。
「なに渡したんだ?」
あんずの背中でよく見えなかったアイビー。
あんずはそのまま歩いて大学に向かう。
「あの女まさか‥‥」
アイビーは事務所に帰ると潮田の所に行く。
「潮田さん、ちょっといいですか?」
「なに?」
「実は‥‥」
アイビーは一連の出来事を話した。
「アイビー、いくら蓮君の事大事でも、それは世話焼きすぎじゃないかな?そろそろ自分で解決させないと」
「それは分かってるんですけど、ほっておけなくて」
「で、俺にどうしろって?」
「昔の調査内容を教えて下さい」
「その子の親の事?」
「はい」
「一応言っちゃいけない事ぐらい分かるよね?」
「はい、そこをなんとか」
「うーん。ちょっと資料が残ってるか探してみるよ」
「ありがとうございます!」
「これは、アイビーの為だからね!」
「分かってますって!」
アイビーは笑った。
「見つかったら連絡するから、アイビーは仕事に戻りな!」
「はい!」
アイビーは潮田からの連絡を待つ事にした。
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