第9話 


 翌朝。


「ふわぁ〜!よく寝たぁ!蓮君が隣にいるとほんっと、ぐっすり眠れる」


 (俺は緊張してぐっすりは眠れないけど、目が覚めるとあんずさんの顔が見れる幸せ!)


「今日は蓮君どっか行くの?」


「予定はないけど、あんずさんがよければ家事は俺がしようと思ってる」


「なんて優しいの!私は助かるけど、蓮君出来るの?」


「やればできるよ!多分」


「じゃあうちの事は任せたぞ!」


「了解!」


「私は用意して大学行かないとなぁ。でもこうして蓮君とベットでごろごろしてたーい!」


 あんずは蓮に抱きついて甘える。


 (か、かわいい‥‥)


「あっダメだよ、遅れちゃうよ!」


「はーい」


 あんずはほっぺを膨らませる。


 (あーもう!どんな顔も可愛すぎ!)


「蓮君何にやけてるの?」


「えっ、にやけてないよ!早く用意しな!」


「絶対今にやけてたでしょー、私がそんなに可愛い?」


「もういいから!」


 蓮はあんずとの生活に胸を躍らせていた。


「じゃあ行ってくるね!」


「行ってらっしゃい!」


 (あんずさんも行った事だし、掃除でもしようかな!っていっても綺麗すぎてする所ないな)


 蓮はあんずの部屋でボーッとして過ごしていた。


 (その辺散歩でもしよ)


 蓮はする事がなさ過ぎて暇を持て余していた。


 (早くあんずさん帰ってこないかなー)


 そんな事を思いながら歩いていると。


 (あれっ大学行ったはずなんじゃ‥‥)


 そこにはあんずの姿が、そして隣には見知らぬ男がいた。


 (浮気‥‥?なわけないよなぁ。でも大学は?あんなに楽しそうに喋って、誰だろ)


 蓮はあんずの事を信じきっている為、浮気だとは思わなかった。


 (帰ったら聞いてみよ)


 あまり深く考えず散歩を続ける蓮。


 (でも、ちょっと気になる!)


 蓮は二人の後をつける事にした。


 あんずと男は仲良さそうに歩きながら、人気の少ない所に進んでいく。


 (‥‥ここって)


 蓮はついた場所を見て驚いた。


 そこはホテル街だった。


 (えっまさか入らないよね‥‥)


 しかし、蓮の期待は裏切られる事に。

 二人はホテルに入って行ったのだ。


 (‥‥そんなぁ)


 蓮は絶望的だった。


 (でも何か事情があるはずだし、聞いてみないと分からないよね‥‥)


 こんな状況でもあんずの事を信じようとする蓮。


 (出てくるまで待つか。帰ろうか)

 

 迷っている所で後ろから声をかけられる。


「おい」


 振り向くとそこにはアイビーがいた。


「アイビー‥‥」


 今にも泣きそうな蓮。


「こんなとこで何やってんの?」


「それが‥‥あんずさんを見かけてついてきたらこんなとこに」


「は?意味わかんねー」


「だから!あんずさんが知らない男とホテルに入っていったんだよ‥‥」


「さっそく浮気されてやんの。だせー」


「浮気って決めつけないでよ!まだ決まったわけじゃないんだから」


「お前はどこまでピュアなんだ?てか出てくるの待つつもり?」


「どうしようか考えてた。てかアイビーこそ何やってんの?」


「浮気調査だよ。しっかしこんな堂々と浮気するとはな」


「だから違うって!多分‥‥」


「まあせいぜい気を揉んでろ」


「ちょっと待って!」


「なんだよ」


「一緒に待ってくれない?」


「なんでだよ、こっちは仕事があんだよ」


「お願い!」


 蓮は顔の前で手を合わせる。


「はぁ、今は無理だ、この調査が終わったら戻ってくるから待ってろ」


「ありがと!待ってる!」


 蓮はホッとして、ホテルの出口を見張りながらアイビーを待つ事に。


 しばらくするとアイビーは戻ってきた。


「こっちこっち!」


 蓮は手招きする。


「てかほんとに見たのかよ」


「確かにあれはあんずさんだった。朝着てた服も同じだったし」


「あぁ、側にいるって一緒に住んでんのか」


「その方がいいかなって思って」


「まぁどうでもいいけど」


 その時。

 

「あっ!出てきた!」


「どれどれ?」


 あんずはホテルの前で男に手を振り去る。


「やっぱりあんずさんだ‥‥」


「‥‥帰ってちゃんと問い詰めろよ」


「うん、わかってる」


 そう言うと蓮はとぼとぼ帰って行った。


「世話が焼けるやつだなぁ」


 アイビーは呟く。


 蓮が帰ると、すでにあんずは帰っていた。


「あんずさん」


「あれ?蓮君どこか行ってたの?」


「うん、ちょっと散歩に」


「そう、お腹空いちゃった!なんか食べに行こうよ!」


「そうだね」


「なんか元気ないね?」


「ねぇ、あんずさん、今日大学行ってたの?」


「そうだよ?どうして?」


「俺、街であんずさん見かけた気がする」


「人違いじゃない?」


「確かにあんずさんだった」


「どこで見たの」


「ホテルに入って行くの見た、男の人と」


 明らかにあんずの顔が曇った。


「私の事、嫌いになったでしょ」


「なってない、何か言えない事情があったんでしょ?教えてほしい」


「蓮君は知らない方がいいよ」


「もしかして、俺みたいに知り合った人?」


「違うよ、施設から出てきて本当に会ったのは蓮君だけだから」


「じゃあ誰?!」


 蓮はつい声を荒げてしまった。


「大きい声ださないでよ」


「ごめん、でも教えてよ」


「蓮君に言ったって何も出来ないくせに!」


 あんずはそう言うと布団に入ってしまった。


 蓮は返す言葉も出なかった。

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