第8話 

 翌日事務所に顔を出す蓮。


「所長、ちょっといいですか」


「どうしたの?蓮君」


「俺、ちょっとやらなきゃいけない事があって、せっかく俺の事受け入れてくれたのにすみません」


「いいんだよ。蓮君の人生だからね、悔いのないようにしたらいいよ」


「ありがとうございます」


 蓮は所長に挨拶を済ませると、アイビーと潮田の所にも向かう。


「アイビー、潮田さん。しばらくあんずさんの側にいる事にしました」


「そっか。まぁ蓮君が決めたんならとやかく言うつもりはないよ」


「なんかあったらすぐ言えよ」


「うん、ありがとう」


 蓮はそう言うと事務所を後にした。



「一生の別れみたいな顔するなよ」


 潮田が言った。


「そんな顔してませんよ」


「ふーん」


「なんですか」



「なぁ、俺じゃダメか?」



「えっ?」


 突然の事に驚くアイビー。


「もう見てられないよ」


「どうゆう意味ですかそれ」


「そのままの意味だよ。俺たち付き合わないか?」



 その場の空気が一瞬止まった。




「プッ!ハハーッ!」


 アイビーは大きな声で笑った。


「な、なに笑ってんだよ!」


「しっ、潮田さんおかしいですよ!だって、自分男ですよ?」


 アイビーは涙が出る程笑っている。


「えっ?!でも、だって、そんな可愛い顔してんのに」


 潮田はしどろもどろになる。


「すいません、笑い過ぎですよね」


 笑い過ぎたアイビーは呼吸を整えながら落ち着く。


「マジかぁ‥‥」


 分かりやすく落ち込む潮田。


「もしかしてずっと自分の事、女だと思って接してました?」


「‥‥うん」


「あー、久しぶりに笑いましたよ。告白されるとは思いませんでしたけど。でも、ありがとうございます」


「お礼言われたってなぁ」


「なんか、さっきまで落ち込んでたのがバカみたいに思えてきましたよ」


「そりゃあ、よかったな。こっちは逆に落ち込んだけどな」


「すいませんって!」


 アイビーは笑っていた。


「まっ!アイビーが笑顔になったんならいっか!」

 

 事務所には二人の笑い声が響いていた。



 その頃、蓮は家に帰っていた。


 (いるものはこれくらいかな)


 蓮はカバンに荷物を詰め込むと、あんずの家に向かった。


 

 ピンポーン

  

「はーい」


「きたよ」


「いらっしゃい」


 蓮は荷物を持ち、あんずの部屋へと上がる。


「荷物それだけ?」


 あんずが聞く。


「着替えくらいしかいらないと思って」


「そっか、今日からよろしくね」


「こっちこそ、何も出来なくてごめんね」


 蓮はあんずの家にしばらくいる事にしたのだ。


「蓮君がうちに居てくれるなんて夢みたい!」


 あんずの屈託のない笑顔に蓮は癒されていた。


「俺の方が夢みたいだよ!」


「ねぇ、そろそろ、ダメかな?」


「なにが?」


「まだうちら、キスもしてないじゃん?」


「!!!」


 (俺キスした事ないのにどうしよ!)


「そ、そうだよね。う、うん」


 蓮はあたふたし始めた。


「もしかして、した事ないの?」


「‥‥ごめん」


「フフッ、蓮君かわいい」


「えっ」


 顔が赤くなる蓮。


「じゃあ私からしてもいい?」


「えっ、あっ、‥‥うん」


 あんずは蓮の頬にそっとキスをした。


 (わぁーあんずさんの唇柔らかいなぁ)


 蓮はドキドキしていた。


「今日は一緒に寝ようね」


「う、うん」


 (なんかドキドキしっぱなしだなぁ、大丈夫かな、これから)

 

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