Orientation / Operation "TWO BLADES"

キューマン

オリエンテーション、序文

 おはようございます。

 皆様、本日は朝早くからお集まりいただきありがとうございます。

 本オリエンテーションリーダーを務めさせていただく『"二刀流"計画』所長、ハヤカワと申します。

 それでは、時間も押していますので、手早く始めさせていただきましょう。


『魔法』――皆さん、結構馴染みのある概念ですよね? 無論、フィクションとしてですが。

 勿体ぶった話をするのも時間の無駄ですので、言ってしまいますと……『魔法』というものは、実在するのです。

 こうして我々のエージェントからスカウトさせてもらったのも、皆さんが科学の担い手を目指してここまで成長したからでして……まあ要するに、皆さんなら科学系のニュースは余すことなく端から端まで広く読んでいらっしゃるでしょう。

 つい先日、未発見の素粒子『M粒子』が発見され、これが既存の物理学では説明できないどころか、今の今まで存在していなかったはずの粒子だという奇妙なニュースが流れましたね?

 今現在ハイスピードで研究が行われているのですが……『M粒子』はボース統計にもフェルミ統計にも従いません。


 はい、皆さんお静かに。驚く気持ちもわかります。

 ですが事実です。どうやら、この粒子は既存の物理学どころか物理法則すら破壊しにかかっているようです。

 そして、この粒子が持つ興味深い性質――それが『魔法』です。

 どういうことかと言いますと……実演してみせたほうが早いですから、そうしましょう。こう、腕を伸ばして……《Xanataleh》!


 静かに!驚くのはわかりますが、一旦グッと飲み込んでください。

 皆さん、もしかしたら仕込みかもなんて思っていらっしゃるかもしれませんが、これはれっきとした現実の光景です。

 私が腕を伸ばして、呪文を唱えたら、手の先から火を吹いた。

 チャチな手品のようですが、これは皆さんにも簡単にできることです。

 ああそこ!試そうとしないでください、できるとはいえ訓練を経なければこのホールが丸ごと焼けてしまいますからね。


 さて――人類には二つの選択肢があります。

 一つ、この『M粒子』を無視して生きていく。

 実のところ、この粒子はあまり我々の生活……というよりは、既存の物理学に影響を及ぼさないのです。これが単体で逸脱しているだけですからね。

 まあ、偶然『魔法』を行使してしまったことによる事故は少しくらい増えるかもしれませんが、まあその程度です。

 もう一つの選択肢というのはもちろん、この『M粒子』を理解することです。

 まあ、こんな面白そうな現象、研究者の皆さんなら放っておくはずはないでしょうからね。

 ただ、それでも『無視する側』に付く方を批判するつもりはありません。そもそも皆さんへのスカウト自体、引き抜きのようなものですからね。そちらを究めたいという方もいらっしゃるでしょう。

 ですから、そういう方はここで帰っていただいても構いません。我々はそういう選択をした方へ何らかの不利益を齎すつもりはありません。後日スカウトに応じてオリエンテーションに来ていただいたことに対する謝礼金もお出しします。

 では、どうぞ、お帰りください。


 ……半分以上は残ると思っておりましたが、まさか100人中100人が残るとは思ってもみませんでしたね。素晴らしい、さすが日本の科学の担い手の皆さんです!

 そうそう、察しの良い方ならわかっているとは思いますが、『魔法』は手品なんてものじゃありません――《Jugarmeh》!

 はい、皆さんお静かにお願いします……流石に慣れましたか。我々のエージェントの目は一級品だったようですね。出入り口の鉄でできたドアが吹っ飛んだくらいじゃ動揺しない人材は、まさに我々が求めているものです。

 ここでもう一度アナウンスしておきますが、これを研究するのが怖い、ありえないと思う方は帰っていただいても構いません。責めるつもりもありませんし、もしここにいる方々の誰かが帰った者を非難したりバカにしたりするなら、相応の処罰を下します。さあ、どうぞ。


 78人。まあ、良いでしょう。

 退室された22人の方には、既存の物理学をこれからも担っていっていただくだけですから。

 ところで――失礼、我々は一つ嘘をついていました。

 皆さんにはこの『M粒子』を研究するか否かの選択肢があります。ですが、人類単位で見れば最初から選択肢などありません。

 簡単な話です。鉄のドアを20m離れたところから吹っ飛ばす能力が人間に向けられたらどうなると思いますか?ちなみにですが、これでも抑えた方です。

 アメリカの実験では戦車をひっくり返したそうですよ。被験者は16歳の少女だったそうですが。

 そんなポテンシャルを秘めた『魔法』が研究されないわけ、ないですもんね?


 まとめに入りましょう。

 今後、世界の勢力図は大きく書き換わります。

 科学に裏打ちされた兵器が『魔法』によって覆される。戦争は今の形を維持できません。

 ですが、人間だけが『魔法』を行使するのにも限界がある。

 我々の主な業務は、『M粒子』自体の研究はもちろん、『魔法』の規制等に関する法整備に助言を行う諮問機関としての役割も含まれますが――最終的な目標は、科学でできた機械が『魔法』を行使できるようにすること。


 我々は『"二刀流"計画』――科学と魔法の刃を同時に振るう、時代の先駆者です。


 これで講演を終わります。ご清聴ありがとうございました。

 では、これから雇用契約書をお配りいたします――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Orientation / Operation "TWO BLADES" キューマン @QmanEnobikto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ