第2話
ベッドで横並びに寝るけど、シングルベッドだから狭い。もしくは、彼女で狭い。
「彼女さんとは別れないの?」
「そのうちなー」
「早くしないと私おばちゃんになっちゃうよ」
「別にいいよ、おばちゃんで」
久美は稔の五歳年上だから、三十一歳。
「別によくないよ」
横で膨れている。膨れるけど、それ以上は言わない。稔はまた、自分が緩むのを感じる。ここがなくなったら俺は生きていけない。だけどそれは久美には言えないことだ、もちろん他の誰にも。彼女が話題を変える。
「どうして、稔には彼女が二人もいるのかな」
「え、それ、知りたい?」
「知りたーい」
ふむ。稔は小さく息を吐く。ここと外の間には秘密という名の嘘の壁がある。外では外の真実を言うように、中では中の真実を話したい。久美が不愉快になったとしても。
「彼女を一人作るのはそう難しいことじゃない。その気になればね。だけど、二人目となると状況は全然違って来る。必要なものが二つ。それは補い合うからどっちかが多ければもう片方が少なくてもいい」
「分かった。時間と精力でしょ?」
「違うよ。それも大事だけどね。正解は、魅力と金だよ」
「身も蓋もないね」
「俺は久美といて金は殆ど使わないから、魅力が十分にあるってことだね」
「それは正解ですけど、何か嫌な感じ」
また彼女が膨れる。久美が膨れるのは微笑ましい。一人目の彼女、
「でも真理だと思うよ」
稔はそう言って起き上がり、タバコに火をつける。その火を見て、今が深夜であることを思い出す。そろそろ帰らなきゃ。思った途端に緩みの進行が完全にストップして、でもそれは緩み切っただけかも知れない、稔は彼女の顔を覗く。やっぱりビーバーだ。俺はビーバーの巣で安心している。この世界の他のどこでもダメなのに、ここでだけは安心している。理由が分からないけど、体は事実を受け入れている。
「もう帰るの?」
「うん」
「そっか。また来てね」
「もちろん」
話しながら服を着て、彼女の匂いの強い指先を洗面所に行って洗い流す。
「じゃあね」
玄関では囁き声で、稔はドアが完全に閉まるのを見届けてからその場を離れる。自転車に乗って、自分の家まで十五分。体の表面から緊張が侵入し始めていた。稔は手に入れた緩みを最大に残したまま家に着きたいと願いながら自転車を漕ぐ。
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