第15話 別れ15p

 俺と仲間は通夜が始まる時間まで季夜の住んでいた町の中をぶらついて過ごした。

 季夜がいなかったら付き合う事も無かったであろう仲間とは季夜がいなければ話す事は特に無く、俺は仲間の話に適当に相づちを打つばかりだった。

 と言うか、何を言われても上の空であった。

 季夜の住んでいた町。

 その街並みを見ても俺の頭に残ったのは路地裏にいた三毛猫の姿だけだった。

 大きなあくびをしながらのんびりとした風の三毛猫を見て、呑気そうで良いな、何て思った。

 三毛猫は俺達の姿を見ると、にゃあ、と鳴いて塀を越えて行った。

 

 黄昏時が訪れる頃、誰かが、「もう直ぐ時間だな」と言った。

 それは勿論、季夜の通夜の時間の事を指す。

 俺達は重い足取りで葬儀場へと向かった。




 季夜の通夜には沢山の人が来ていた。

 大学の季夜の友達は季夜の遺影を見て皆、泣いていた。

 誰もかももが当たり前の様に涙を流していた。

 胸が痛くなる。

 俺は季夜の遺影を見ても涙が出なかった。

 だって、季夜が死んだ事に実感が湧かなかった。

 死んだなんて嘘だろ。

 何かの冗談に決まってる。

 そんな事ばかりを思っていた。

 通夜の帰り、俺は、一人で帰る、と言い出した。

 仲間は驚いたが誰も俺を止めなかった。

 これから食事をして帰ると言う仲間と別れて俺は一人で駅に向かった。



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