第4話

「なぁなぁ、安田って、ギャルとか嫌い?」


「え? 何? 急に」


「いやさ、ちょっと聞いたから、やっぱこんなチャラそうな女より、清楚でおとなしい系の子がタイプか?」



 佐々波さんは「はぁ」とため息を吐き、肩を落とす。



「い、いや、そんなことないよ、俺は両方大丈夫。いわゆる二刀流ってやつだよ」



 何だ何だこの迫ってくる感覚は、ほのかに香る香水も後押しして、一瞬で俺は、佐々波さんの術中にハマった気がした。



「じゃあさ、あたしと付き合ってみる?」



 足を止めて俺を覗き込んでくる、上目遣いの潤んだ瞳に、俺は「うん」と、しか言えなかった――――


 計画なんてない、恋人というものは突然やって来るものなのだ、俺は佐々波さんとの恋愛を楽しむ想像を膨らませた――――







「何言ってんだよ、バカ」



 さっきまで笑顔だった佐々波さんは、眉間にシワを寄せ、俺を睨み付けている。



「え?」


「そんなの、二刀流なんて言わねぇんだよ、『誰でもいい』って言うんだよ! バカ」



 天国から足を滑らせて落ちている感じだ、頭が真っ白になり、ただ呆然と立ち尽くすのみ。



「お前彼女作るのにこそこそしてんじゃねぇよ」



 計画が、バレている――――



「宮下瑠美は私の幼馴染みだから、お前みたいな姑息なやつに絶対渡さねぇから!」



 話が、回っていたのか――――



「男なら、好きな気持ちを正面からぶつけてみろよ!」


「正面……から?」


「そうだよ、それで女を惚れさせるんじゃねぇのかよ、あたしはそんな男じゃないと無理だね!」



 初めて女の子から説教された、俺の思っていた理論は音を立てて崩れ落ちた。



「分かったよ、佐々波さん!」


「ん? おお、分かったならもういいよ」


「正面から、だね!」


「ああ、でも瑠美がどう思うかは、別だからな」


「そんなの、いい」


「そうか」


「だって俺、佐々波さんと付き合いたいから! 好きです、佐々波さん!」



 俺は佐々波さんとの距離を詰めるように唇が触れそうな程に近づいた、



「は、はぁ? お、おまっ、バカか!!」



 佐々波さんの焦った顔は、とても可愛く見えた。



――了――

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