第7話 君の名は……


アタシは『渡り猫』


名前は決まっていないわ。


だって、ある老夫婦の家では


「 いらっしゃい、クロちゃん !

おじいさん、クロちゃんが来たから鰹節かつおぶしを持って来てくださいな 」


「 わかったよ、おばあさんや !

え~と、この辺に確かあったハズなんじゃが…………あった あった !

今、持って行くからのう、クロちゃんや 」


「ウニャァ~ン( ありがとうね、おばあちゃん おじいちゃん)


アタシは行儀が良いから座って待っている。

そうして、美味しいご飯を貰う。


「ウニャァ~ ウニャァ~(ごちそうさま、美味しかったわ)」

きちんとお礼を、忘れないのも大事よ。



そして、とあるヒキニートのあんちゃんには


「 ウニャァ~オ ウニャァ~オ( あんちゃん、遊びに来たからオヤツを頂戴ちょうだいな)」


ガラリ 窓が開いて血色の悪そうな男の人が


「 うぉぉ、 めぐタン ! 爆裂散歩からの帰りかな ?

早く人間に成って僕を異世界に連れて行ってよ、めぐタン !

…………冗談は、さておき めぐタンに高級オヤツのチュ◌ルを通販で買ってあるからおいでよ ! 」


このあんちゃん、変わっているけど 何時も美味しいオヤツをくれるから好きなのよね。


京都さんでは『しのぶ』と呼ばれ、神戸さんでは『なぎさ』と呼ばれたわ。



沢山の別荘を持っていて各家かくいえごとに違う名前を持つ猫の事を『渡り猫』と云うのよ。


美猫のつらい処はモテ過ぎる事なのよね。

最近は二匹の雄猫おすねこに言い寄られて困っているのよね。

確か、ガンモとコロッケと言ったかしら、



「 ねえ ねえ 美猫のお姉さん ! おいらは、ガンモというんだ。

お願いだから、おいらの彼女になってよ ! 」


「 そんな奴より俺の方が良い雄猫おとこだぜ !

このコロッケがアンタに相応ふさわしいんだぜ ! 」



二匹が争うようにナンパしてくるのよね。


そんな時に出会ったのは 伊知川いちかわさんのカニゾウさんよ。

一瞬で『 恋 』に落ちたわ、そして彼の『 子供 』を身籠みごもったけど安心して産む場所がなかったのよ。


どこの家もご飯はくれるけど 子供を産む場所としては不安があるからなのよね。


だから、この辺りのボス猫であるにゃん太郎親分に相談したの

そうしたら、


「 それなら丁度良い場所があるよ !

おっちゃんの処の『ウッシー』の家の上の部屋(発泡スチロール製)が空いてたはずだ。

俺が案内するから追いて来てくれ 」


にゃん太郎親分に追いて行くと アノ料理屋の裏庭に案内された。

お店の前を通ると何時も良い匂いがしていたのよね。



「 ここなら、おっちゃんに美味しいご飯めしが貰えるし 外からは見え難いから外敵の『カラス』に襲われる危険も無いから安心して子育て出来ると思うぞ 」


案内された小屋の下の部屋から雌猫女性が顔を出したら子猫達も一緒に出て来たわ。


ひい ふう みい よお いつ ………五匹なんて子沢山ね。

1匹だけ毛色が違うけど………まあ、いいわ。


これからお隣さん同士なんだから仲良くしないとね。

ウッシーさんと挨拶をしていたら裏口のドアが開いておじさんが出て来た。

私が警戒しているとにゃん太郎親分が


「 大丈夫だ ! この人間が『おっちゃん』だよ

俺がおっちゃんに頼んでやるから待っていてくれよな


ニャァ~ ニャァ~ ニャァオ~ン ニャァオ~ン( おっちゃん、悪いけど この雌猫女性の面倒も頼むよ)」



「 なんだ なんだ 、 にゃん太郎 又 新しい彼女か ?

本当にモテる奴だなぁ~…………腹が大きいな、ウチは産科病院じゃないんだぞ、にゃん太郎…………と 言っても猫にわかる訳ないか………

その黒猫の分のご飯エサもやれば良いんだろう 」


そう言いながら ご飯を出してくれた。

優しそうなおじさんで良かったわ、ご飯も美味しいし親分に相談して良かったわ。


私がお礼を言おうとしたら


「 名無しでは不便だから名前を付けてやるな

『 クロ 』だと在り来たりだし、『こぶ平』だと男だし、『ワカメ』は小学生だし、う~ん う~ん …………お焦げ ! そうだ、これからお前の名前は

『 オコゲ 』に決定な !

我ながら良い名前を考えついたな ! 」



「「「…………………………………」」」


ウッシー と 親分は笑いだし、私は唖然あぜんとしていた。



その後、猫達の間で私の名前は『オコゲ 』で落ち着いてしまった。



私の名前は オコゲ。 おっちゃんのせいで変な名前が定着した黒猫です。

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