ブチとハチのくだらない喧嘩

三葉さけ

ブチとハチの喧嘩


 頭の天辺にカッパの皿みたいなブチ模様をのせた猫が腰に縄を巻き付けて結び、木の棒を二本差した。


「ブチ、そりゃ何の真似でゲス?」


 寂しい頭髪を引っ張ったようなハチワレの猫が聞くと、ブチが得意顔で両手に棒を取り歌舞伎のみたいに見栄を切った。


「二刀流ってことよぉぉぉ、かっ」


 気合とともに棒を打ち鳴らす。


「どうでぇハチ、おめぇもやらねぇか? チャンチャンバラバラってなぁ」

「そうでゲスねぇ。ちょうどいい木の棒があるか探してくるでゲス」

「おぅ、待ってらぁ」


 ハチが戻ってくるのを待ちながら、木の棒を振り回してるブチの目の前に蝶が飛んできた。ブチの両の目がせわしなく蝶の動きを追う。

 ここだっ! と、振り下ろした木の棒は勢い良く土を削った。

 渾身の一撃をなんなく躱され悔しさで鼻にシワが寄る。ムキになったブチは、フワフワとあちらこちらへ飛び回る蝶を追って棒をムチャクチャに振り回し、しまいには振り下ろした棒にけつまずいて地面に転がった。


「何やってるんでゲス?」


 ハチの声で我に返り、急に恥ずかしくなった。自分の棒でスッ転んだことを誤魔化したいブチが、やたらと大袈裟に文句をつける。


「やいやい、遅いじゃねぇか。待ちくたびれさして勝とうなんざ、武士の風上にもおけねぇぜ。二刀流は俺なんだから勝つのは俺だ」

「じゃあ、あっしが小次郎ってことでゲス?」

「おうよ」

「でも勝つのはあっしでゲス。あっしが勝ったら、ブチが『ゲス』って言うでゲス」

「嫌だね。そんなバカみてぇなことできるかってんだ」

「くぅぅっ」


 ハチがしかめっ面で地団太を踏むが、肉球のせいで迫力のある音が出ない。


「あっしに言わせといて、なんちゅう言い草!」

「おい、『ゲス』付け忘れてんじゃねぇよ。付け忘れ五回でネズミ一匹だからな」

「くそぉぉぉ、ゲス。ブチのゲスゲス」

「なんじゃそりゃ」

「おめぇがゲスだってことでゲス」

「てめぇ、言わせておけばっ! いざ尋常に勝負しろいっ」

「望むところでゲスっ」


 ヒートアップした二匹は、せっかく拾った木の棒を放り投げて取っ組み合いを始めた。

 猫パンチ! 後ろ脚キック! 耳かじり!

 ゴロゴロ転がって土まみれになる。

 二匹の猫が二つの泥団子になるころ、ぜえぜえ息を切らして寝転がった。


「はぁはぁはぁ、おめぇもやるじゃねぇか」

「ぜぃぜぃぜぃ、おめぇこそゲス」


 こんなときでもゲスを付け忘れないハチに思わず感心するブチ。見上げたプロ根性だぜ。


「よしっ、引き分けだし、もういいぜ。『ゲス』付けるのやめて」

「本当でゲス?」

「男に二言はねぇってんだよ」

「よっしゃー!」

「次に負けたら『ヤンス』付けろよな」

「はぁぁぁ? 付けるのはおめぇだよ。おめぇが『ヤンス』って言うの笑ってやる」

「あぁん? 俺が負けるわけねぇだろ」


 さっきまでの疲れはどこへやら、またもや取っ組み合いを始める。はてさて勝負の女神はどちらに微笑むのか。


 めでたしめでたし

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ブチとハチのくだらない喧嘩 三葉さけ @zounoiru

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