第15話 決着とその後。

「こっちにするよ。拓真。」

刀の一本を持って、もう一つは返した。

(侑名ちゃん、律儀に返しちゃった。)光は唖然としている。


「やっぱり、素敵だよ。侑名~。」


「楽しそうだね。拓真。」


「大好きな侑名を殺れるんだよ。最高の気分なんだ。」


「私に勝てると思っているの?」


「この日のために…侑名の首が欲しいから、頑張ったよ。」


「光栄な事ね。そこまで思ってもらえるなんて。」


「だろ~。さあ、最高に楽しませてくれよ。」


「おしゃべりはここまで、だよね。」


「ここからは命のやり取り……ゾクゾクしてきたよ、侑名。」


それから、二人は何も話さなくなった。僕はただ、この狂気みたいな状況を見守る事しか出来なかった。侑名ちゃんがなんでそんな自信があるのかも分からないし、明確な殺意を持っている拓真くんに対して、侑名ちゃんからは何も感じない。


(侑名ちゃんの雰囲気が変わった。こんな人がいるんだ…。)


勝負は一瞬だった。剣術を習得していただろう拓真くんに対して、侑名ちゃんが圧倒したんだ。しかも、切らずに………。

気付いたときには、拓真くんが倒れていた。


「バカだよね。拓真。ほぼ最強の私にこんな物を渡したら、最強になっちゃうじゃん…。」侑名ちゃんはとても悲しそうだった。


「侑名ちゃん…。」


「さっ、終わったよ。コイツを警察に引き渡そう。」


「侑名!今川!大丈夫だったか!」

(高橋くんだ。)

「いいタイミングだね。高橋くん、持ってきてくれた?」

「ああ、頼まれていたからな。」

「じゃあ、そこで転がっている拓真を縛ってくれる?」

「分かったよ。今回の事はコイツがやったのか?」

「うん。ご丁寧に自白もしてくれた。これ、録音してたから、証拠になる。」

(侑名ちゃん、いつの間にそんな物まで。)

「気絶させたのか…。スゴいな。」

「言ったでしょ、私は強いって。」



その後は警察が到着して事件は幕を閉じた。でも…。

失ったものは取り戻せないし、多くの人たちが後遺症に悩まされた。

精神科に通院する人、錯乱して暴れ出す人もいた。性的思考が変わってしまう人も…。


僕は、

「侑名ちゃん。」

「光ちゃんどうしたの?」

「高橋くんが、楓ちゃんと付き合う事にしたって。」

「奥手なタイプ同士だから、徐々になかよくなったんだね。良かった。」


高橋くんは楓ちゃんと行動しているうちに恋愛感情をお互い抱いたらしい。

(侑名ちゃんはここまで考えて一緒に行動させていたのかな?相性占いのバイトしているって言っていたもんな。)


「光ちゃ~ん。」北山さんは僕にベッタリ引っ付いている。

彼女の性的な思考は完全には元に戻らなかった。女の子の格好をしてる僕に恋愛感情を持って接しているみたいだった。

侑名ちゃんは親友が男性を好きになれるように僕にこういう格好をして男に慣れさせるようにお願いしてきたのだ。

僕は最初は女の子っぽく振る舞ったりして、彼女の気を引いて僕を好きになるようにした。症状は徐々に治ればいいなって思う。

(恐らく、僕と北山さんの相性の良さも見抜いているんだろう。本当にスゴいよ侑名ちゃんは。)


「恵麻ちゃん。いくら僕が好きだからとしても、ここは教室だよ。みんなの前なんだから、我慢しなきゃ。」

「可愛いから好き。」

「人の話を聞いている?」

「うん。聞いている。」

(本当かな~。)


そのあと侑名ちゃんに絡んでいって、

「いくら侑名でも、光ちゃんは渡さないからね。」

(恵麻ちゃんは僕と侑名ちゃんがなかよく話をしていると侑名ちゃんに嫉妬してすぐに止めに来る。)

「嫉妬か、いい傾向だよ。私の親友を大切にしてくれていつもありがとう、光ちゃん。」


侑名ちゃんは自分には人を好きになる感情が欠けているから、誰も好きにならないと思うって言っていた。

侑名ちゃんは人より優れているからこそ、悩んでいるんだと思う。それに拓真くんが暴走した原因は自分にあると考えて責任を感じているんだろう。

多くの人を巻き込んだ…と。


「光ちゃんは情で人を好きになる傾向がある。」

「今も私に同情する感情を向けていた。私は親友の浮気心を許すほど、心は広くないよ。」

(うっ。見抜かれている…。)

「恵麻を泣かせたら、分かっているよね……。光ちゃん?」

(恐いよ、侑名ちゃん。)


「大丈夫だよ。恵麻ちゃんを大切にする。」

(敵わないよこの人には。)


「また、二人で話してる!侑名!どういうつもり。」

「光ちゃんが隠れて浮気をしようとしていたので注意していただけだよ。」


(二人とも)「えっ!」

「ちょ、違うよ。そんな事を僕はしないよ。」

「どういう事!相手は!光ちゃん!」

(ものすごく責められてる…。)


「じゃあ、二人ともなかよくね~。」

 侑名ちゃんはそう言い残し離れていった。


「落ち着いて、恵麻ちゃん。誤解だから。」

「無理よ!落ち着くわけないじゃない!」


恵麻ちゃんに一生懸命に弁解している僕を遠くから、楽しむ姿の侑名ちゃんがいた。


~END~

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イケメンの幼馴染が昨日から変だ サトリ @satori-482

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