第21話「新たな空間」
ベルナールたちは若手冒険者から獲物を横取りしない程度に、C級の魔物を三体ほど仕留めた。
「さてと、デビュー戦としては上々だ。帰るか」
「はいっ!」
「はい~っ!」
最初は不安げだった二人の顔も、今は自信に満ち溢れている。
「ここ、続きがあるみたい~」
「続き?」
第四階層の途中でロシェルが突然にダンジョンの壁を指差す。
「この向こうにダンジョンがあるの?」
「ある~」
「何だって!」
確かにロシェルには探査の力がある。ただしその力はまだ弱い。
他の冒険者たちが今までまったく気が付かなかったのは、ダンジョン探索は常に深部に向かうからだ。第四階層で側面に向かう新道があるなど確かに盲点だった。
もしかすると新ダンジョンの空間か? ベルナールは一瞬そう思ったが、ここからの支道か付属空間程度が妥当な可能性だ。
「一応、ギルドに報告しておくか……」
地表に戻り、出迎えてくれたマークスに戦果を報告する。一応、ここの守備隊長なりに心配してくれていたらしい。持つべきは昔なじみだ。
支道らしき空間の件も話した。
「そいつは俺も初耳だな……」
「今まで問題になっていないなら、それほど気にしなくてもいいだろう。何せ俺だってここでずいぶんと戦ってきたんだしな」
「そりゃそうだ」
こちらから開けない限りは、地殻変動でもないかぎり開口はしないはずだ。
ダンジョンの街に出て、ベルナールは雑貨屋でここのダンジョンの地図を一冊買う。もう何年を改定されていない見取り図だ。
「俺は記憶しているがお前たちには必要だな」
ベルナールはそう行ってアレットに手渡す。
「時間があるときに眺めて覚えるんだ。逃げる時にいちいち地図は広げられないからな」
魔物の出現ポイントなどの情報も書かれている優れものだ。
「喉が渇いたな。お茶を飲んでいこうか」
そう言って何年ぶりかで古びた喫茶店、女性的には甘味所に入る。
昔、セシリアのお気に入りだった店だった。
中は昔と同じでクエストを終わらせた若い冒険者パーティーで賑わっていた。女性のメンバーが多い。
酒場に行くのはまだ少し早い時間だ。その前に有り難き女子様の冒険者を
「あら、久し振りね、ベル」
この店の経営者で年配の女性が、ベルナールの顔を見咎めて自ら注文を聞きに来る。
「まあな」
「またダンジョンに潜るんだ」
「ああ、この二人を連れてな。今日が初日だったんだ。経験を積むならダンジョンが一番だしな」
「ふーん、可愛いお二人さんね。大物を仕留めたらここに寄ってね」
「はいっ~」
「大物はまだムリです……」
ロシェルは天真爛漫に答えるが、アレットは現実的な回答をする。
「まあ、あなたたちにとっての大物ね」
思えばセシリアが毎日ここに寄りたいと言うのを、大物を倒したら、と言ってなだめながらダンジョンに潜った日々だった。
「この店で一番人気のスイーツを二つだ。それとお茶を三つ」
「あら? ベルも食べなさいよ」
「酒はあるか?」
「相変わらずね。ウチにお酒はないわよ。お茶ね」
店主はそう言って厨房に引っ込んで行った。
「臨時収入もあったしな。ここは俺が払うよ。ダンジョンデビューの祝いさ」
「御馳走になります」
「ありがと~」
思えば師匠らしいことはあまりしていない。弟子たちも素直に礼を言った。
「さて、お前たち。今日のクエストは終りだ。これからは自由に話をしていいぞ」
「はいっ」
「はい~」
ベルナールはクエスト中のおしゃべりは厳禁だと、二人に課していた。そちらの方が魔力の行使に集中できるし、魔物の気配を察知できるからだ。
「ロシェルは凄かったです。もう支援魔法を覚えました」
傍らで見ていて感じたアレットも凄いのだが、少し残念そうに言う。
この二人は支援する側とされる側とに、既に役割が明確に分かれていた。
「支援魔法は俺だって使えないさ。俺たちは
「そうですか――、良かった……」
「ロシェルはよく支援してくれたな」
「お姉さんが教えてくれた~」
「うん、前にもピンチを助けているんだ。そのお礼だな」
先にお茶が運ばれてきた。ウエイトレスが再びスイーツを運ぶ。
パンケーキにたっぷりのクリーム。蜂蜜にチョコ、ジャム。そして季節のフルーツ。昔と変わらない懐かしい姿だった。
そしてなんと、『祝! デビュー』とチョコで文字が描かれている。
「さあ食べよう。あるAクラス冒険者、その少女が好きだったスイーツだ。あやかりたいな」
「おいしいです……」
「あま~い」
二人は顔をほころばせて頬張った。懐かしい光景だとベルナールは静かにお茶を飲む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます