第22話「第六階層突入計画」
報酬を分け二人を帰した後、ベルナールは受付でギルドマスターを呼ぶ。元勇者の知り合いなので職員はすぐに取り次いでくれた。
エルワンはすぐにやって来た。
「ちょっと話があるんだ」
「はい、このあいだは悪かったですね」
「いや、いいさ。金になったんだからな」
バスティたちと商隊を護衛した件の話だった。内容は既に報告済みだ。
二人で部屋の隅にある、仕切られた小さなテーブルへと移動する。
ベルナールは小声で第四階層の件を話す。
「う~ん、それは初耳ですね」
「新ダンジョンじゃないのか?」
北東部には荒野が広がっていた。それは魔力が特に地から湧き上がっている証拠である。草木の成長を阻害するのだ。
「いえ、あの場所の調査は万全です。簡単に崩壊するような深さにダンジョンのような空間はないですよ」
「そうか、ならいいがな……」
あそこに単なる未発見の支道やホールがあってもおかしくはない。たぶんそうなのだろう。
「ところで第六階層への申請はあったか?」
「ありましたよ」
「どうするんだ?」
「一応は受理しましたよ。二度目ですから。ベルさんへのヘルプもあるし本気のようですね」
「ああ、奴らは本気さ。デフロットも焚き付けておいた。あいつの立候補は確定だな」
「人数は多ければ多いほど良いですから」
エルワンはさらりと言う。ベルナール意外だと思った。
「ん? 乗り気なのか? ギルドとしては下を目指すよりは、他の
「それはありますね。ただ王都の部隊が調べることになりました。つまり我々はダンジョンの深部に行けってことですね。実はそんな通達が来たんですよ」
「王都の新ダンジョン攻略はどこまで進んでいるんだ?」
「まだ第二階層攻略のままですよ。たぶん下に行くルートをいくつか見つけたんでしょう」
「それで……か」
どうやら下層を攻略する、こちらの様子を見たいようだ。
「はい。これから下へ下へとせっつかれるかもしれません」
「勝手なものだな」
「はい。上ってそんなモノですよ」
ここ数年はダンジョンの封じ込め政策がとられていた。それは開拓地の拡大が図られていたからだ。
冒険者にはダンジョン内部よりも
しかしその方針は王都で起こった、
「西と東、それと中央のギルドに打診しているんですが、Bランクのパーティーを選別して何組か応援に出してもらいます。アテがあるようで乗り気ですよ」
「だろうな」
ベルナールが現役の時とて他のダンジョンが下に進む時は、選り抜きの応援を出していた。
どのギルドも下層階での経験が欲しかったからだ。
「準備は進んでいる――か……」
◆
打ち合わせが終り、ベルナールはセシリアの店に顔を出す。
セシールがカウンターを担当し、今日は店主自らが厨房に入っているようだ。
「よう、最近は手伝いが多いな」
「昼間は失業中だしね。ビール?」
「ああ、今日は臨時収入もあった。冷えたのを頼むぜ」
「いつも冷えてるわよ」
ベルナールはダンジョンでの出来事を要約し、セシールに話して聞かせる。
「はい、おまたせ。こっちは体がなまっちゃって……。臨時でいいからベルさんのパーティーに入れてくれない?」
セシールがビールを差し出しながら言う。それはベルナールにとっても、願ったりの話であった。
「こっちから誘うつもりだったよ。実は下層階の攻略が始まる。俺と弟子だけじゃあパーティーとしては戦力不足なんだ」
ベルナールはエルワンとの話も説明する。
「私にとっては初めての経験よ! 下のダンジョンなんて」
「俺はアレットを鍛えるから、お前にはロシェルの指導を頼みたい」
弓の戦いは、やはり弓の専門家に任せた方が良い。セシールは支援の魔力も仕える、うってつけの先輩冒険者だ。
「任せて」
ホールの店員が料理を運び、セシリアが厨房から出てきた。
「北のダンジョンで下へ進むなんて久しぶりじゃないの? 街の景気も少しは良くなるかしらね」
「セシリアもウチパーティーに入らないか? 今ならもれなく
「太っちゃうわよ。それに私にはこの店があるの。ダンジョンは若い人たちに任せるわ」
「お母さんはもう戦わないの?」
「街の危機なら戦うけどね。店を守る為に。でも、
ベルナールには分かった。セシリアは娘も一人前に育てたし、今は見守る立場だと思っている。
彼女は街で、ベルナールはダンジョンで若い冒険者たちを見守るのだ。
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