第20話「デフロットの戦い」
「ふーーっ、まだ倒せねえのかよっ! こいつのタフさは底なしだぜ」
サイプロクスは特に持久力に優れる魔物だった。攻撃力はたいしたことはないが、その高い継戦能力と防御力は戦う者を幻惑させる。
デフロットはちょこまかと動くのを止めて敵の攻撃を受け始めた。初めての相手の能力を読みつつある。
棍棒のように変形した右腕を振り回す攻撃を、デフロットは最小の動きで
「やるじゃないか。ちょっと遅かったがな……」
持久しつつ攻撃に転じるタイミングを計るつもりのようだか、いかんせん魔力を消耗しすぎだ。最初の手合わせでこれに気が付かねばならない。
「師匠。なぜ仲間は助けないのですか?」
「
ベルナールはアレットの疑問に答えて説明をする。ちょうどよい教科書だ。
「――ただそれだけじゃないぞ。剣を見てみろ」
「光ってる~」
それは魔撃のような白い光とは違う、より高い力を発揮する青白い光だった。
「魔法攻撃だ。パーティー全ての力をあの剣一本に集めて戦っているんだよ」
ワンマンチームにありがちの戦法だが、ここまで経験を積んでいるパーティーでやるのは珍しい。
戦いの成否、趨勢の全てをリーダーの
互いに信頼していなければできない戦法だが……。ベルナールは続きを見守った。
「おおおおおっ!」
反撃の隙を伺っていたデフロットが動いた。剣を引きサイプロクスの頭部目がけて飛び上がる。
パーティーの三人は最後の力を振り絞って支援を掛けた。
剣が青白く光り炎を
「やりましたっ!」
「凄い~」
サイプロクスはヨロヨロと後ずさってダンジョンの壁にもたれ掛かり倒れる。
デフロットもまた、地上に降り立ち、後ずさって尻もちを着く。
「くあっ……」
戦いはまたも相打ちのような様相を
「あれじゃあダメだな……」
「えっ?」
「そうなの~?」
「見てみろ……」
炎が治まったサイプロクスの頭部と首は完全になくなり、胸の一部も消失していた。しかし右腕の棍棒が通常の手へと変化し、代わりに胸と首の再生が始まる。
攻撃の魔力を削いでも体を復活させようとしている。これこそがサイプロクスの持久力だった。
このまま体を一回り小さくしても頭部を復活させるだろう。
デフロットもそれを理解し、膝をつき剣を握りしめる。トドメを刺そうとするが立ち上がることが出来ない。
「ちょっと営業してくるよ。ここで待っていろ」
ベルナールはアレットとロシェルにそう言って歩み出た。
「俺がトドメを刺してやろうか?」
「なっ、またかよーー」
「三割で手を打ってやるがな……」
「たっ、高えよ!」
「お願いします! ベルナールさん!!」
背後から
「おいっ、ステイニー。勝手に決めるな!」
「何バカなこと言ってるの! もう支援の魔力も切れてるのよ。復活されたら逃げるしかないのっ!」
「くっ、くそお~~っ!」
デフロットはなさけない声を絞り出した。
「見せてやるよ。今回も授業料はまけといてやる」
ベルナールは剣を抜いて片手持ちでサイプロクスに向けて掲げた。
「んっ?」
いつもとは違う感覚にベルナールが振り向くと、アレットとロシェルがこちらを見守っていた。
「見ていただけでモノにしたのか?」
ロシェルの支援魔法がベルナールに供給されているのだ。
ステイニーと呼ばれた
どうやら彼女のアシストが、ロシェルの力を開花させているようだ。
早くも戦果を得た。そしてベルナールは今日二つ目の戦果に挑む。
「これは楽だな……」
体に魔力が溢れた。ベルナールの剣が一瞬青い炎を吹き出しすぐに細く収束する。
「前に見せたのとはちょっと違うな。これもS級キラーと呼ばれた技さ」
細く青く光る筋が徐々に伸び、復活を始めたサイプロクスの首に刺さる。体の内部から炎が吹き上がった。
「お前は外で燃やしてぶつけただろ? それじゃあダメだ。剣で収束させ相手の内部で弾けさせるんだ。お前に必要なのは収束させるコントロールの技術だよ」
攻撃を首から徐々に下げて、腹の部分が炎に包まれた時、魔核がごろりと地面に落ちた。
「これで終りだ」
デフロットは大の字に倒れる。
「また、おっさんに持ってかれた。獲物泥棒だろ……」
「ろくに体も動かせないのに口だけは達者だな。安いもんだろ」
「ここで逃げればオケラなんだからぶつくさ言わないでよっ!」
ベルナールは思わずニヤついてしまう。リーダーはデフロットではあるが、実質このステイニーと呼ばれた魔法少女と、二人三脚でパーティーを率いているようだ。
そう言えばセシールがお礼を言っていた、との
「くそ~、ぼったくりやがって」
「三割と言ったが今回は二割にまけといてやるよ」
一割は弟子が世話になった彼女へのお礼だ。
ベルナールはお馴染みになりつつあるデフロットの革袋から、約束の金を頂戴する。
「さてと。俺たちも小物を狩っていくか。せっかくここまで来たんだからな」
「「はいっ」」
アレットとロシェルの二人は元気よく返事はするが、少し緊張は隠せないでいる。今の激闘を見たのだから無理もない。
「大丈夫。こんな怖い巨人様はもういないさ」
ダンジョンの小物は最低でもC級程度となるが、いまの二人とベルナールならば十分に狩れる相手だ。
「そう言えば……」
ベルナールは立ち止まって振り向いた。
「第六階層への申請を出すパーティーがあるな」
「何だって? それがどうした? 無視されるのがオチさ。俺たちだって昔やった」
デフロットは仲間に支えられながら、ヨロヨロと立ち上がる。
「今回はどうかな?」
「なにっ!」
「俺が協力する」
「ちっ、汚えな! 元勇者のコネかよ。これだから――」
「もっとも許可が出るのは、どれだけ他に行くって言う冒険者たちがいるかだな……」
ベルナールは挑発するようにニヤリと笑った。
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