ようこそ、フローリスト蜜流へ 1 ~秘めやかな二刀流

芦屋 道庵

秘めやかな二刀流

 さあ、今日からアルバイトだ。大学進学で上京して一週間。頑張るぞ。

 フローリスト蜜流、働かせてもらう花屋さんだ。店先には色とりどりの花が溢れ、見ているだけで楽しくなる。


「こんにちは」

「はーい」


 奥から店長らしき人が出て来た。

 うわ、すごいイケメン……。


「あの……」

「アルバイトに来てくれる、御堂つぼみちゃんかな?」

「は、はいぃ」


 緊張して、変な声が出てしまった。


「僕はオーナーの咲野蜜流。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします」

「おーい、つぼみちゃん来たよ」


 蜜流さんの声に、


「はいはーい」


 奥さんが出て来た。


「咲野彩です、よろしくね」


 ひぇ、すごい美人。

 身長は百七十五センチはあるだろう。お洒落なピンクのワンピースを着てニッコリ笑えば、もうお姫様そのものだ。

 旦那さまはさらに十センチは高く、二人並べば、もはやミュージカルスターだ。


「つぼみちゃん、どうしたの?」 


 見惚れてぼうっとしていたら、蜜流さんに不審がられた。


「あ、あんまりきれいだったから……、お花が」

「つぼみちゃん、花が好きなんだね」 

「はい、大好きです」

「それは楽しみだな。じゃ、着替えてきて」


 店の奥に、ロッカールームがあった。かわいいピンクのエプロンと、真新しい紺のスニーカー。


(うーん、花屋さんって感じ)


 とてもうれしい。店に出て行くと


「お、似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」


 一カ月が過ぎた。最初は掃除や配達などの雑用ばかりだったけれど、古くなったお花を使って、アレンジメントの作り方を教えてもらえるようになった。蜜流さんの指先は本当に繊細で、見ているだけで胸がいっぱいになる。


(私も、お花になりたい)


 私は身長百五十五センチ、中肉中背。かわいいとは言われてもキレイと言われたことはない。釣り合わないのはわかっているけれど、あの指で触られたらどうなるのだろう。考えただけでドキドキする……。


「つぼみちゃん」


 彩さんが呼んでいる。

 むせかえるような甘い香り。


「わあ、立派な百合ですね」

「すごいでしょう。これはカサブランカっていうのよ」

「真っ白でとてもきれい」

「花言葉は純潔よ」


 彩さんはピンセットを持っていた。


「ほら、花粉がいっぱい付いているでしょ?これが飛び散ると、花びらが汚れちゃうの。だから早めに摘み取るのよ」

「大変ですね」

「そう、とっても大変」


 彩さんに後ろからハグされた。


「ね、蜜流のこと、いつも見てるでしょ?」

「え?」

「密流のこと、好きなの?」


 何も言えない。彩さんの顔が近づいてくる。


(あ……)


 柔らかいものが、私の唇に触れる。

 私の初めてがひとつ、奪われた。


「蜜流を愛しているの。でも……」


 怖い。だけど動けない。


「かわいい女の子も大好き。誰にも言えないけど、私、二刀流なの」


 たすけて……


「蜜流のことは忘れさせてあげる。絶対に近寄らせないわ」


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ようこそ、フローリスト蜜流へ 1 ~秘めやかな二刀流 芦屋 道庵 @kirorokiroro

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