第4話 箒と雑巾でできる簡単な錬金術(2)

『残念、小学生じゃなくて凛ちゃん発案なんですわ』

「もっとヤバかった!大会の発案だけじゃねえのかよ!?」


観客席の男子生徒がそう叫ぶと、他の生徒達も同意するように首を縦に振った。


「校舎でボールなんざ投げさせたら窓ガラス割るに決まってるからな」

「清水センセったら分かってるぅ!」

「うるせぇ二階堂、この問題児共が!さっさと並べ!」


お互いにマウンド(とされている昇降口前)に向き合って整列しているのだが、歴史考古学部はというと各々が好き勝手に動き回り、整列のせの字もない状態。


あまりの協調性のなさにしびれを切らした清水の怒鳴り声にしぶしぶと列に戻った植木と笛田はヒソヒソと小声で話し始めた。


「清水は一々怖いんだよなぁ。見た目もゴツいしさぁ……」

「俺、凛太郎先生の怒ってない時の顔が思い出せないですよね」

「そりゃあ、先輩達が問題ばっかり起こすからでしょ」

「なるほど!」


「お前ら全部聞こえてんぞ」

「げ」

「やばっ」


植木、笛田は慌てて背筋を伸ばして何事もなかったかのように取り繕う。

植木は視線が泳ぎ、笛田は鳴らない口笛をひゅーひゅーと吹いた。

生粋のアホである2人の先輩を前に、確信犯的アホである二階堂は白い目を向けていた。




「あのさ、帰ってもいいかなこれ」

「えー、折角だし勝とうぜー?」

「僕、巻き込まれただけなんだけど……」


片や清水チームでは巻き込まれた奏太が霧島に不満をこぼしており、士気は今ひとつといった状態だった。


「ねえ、多田野も巻き込まれて大変でしょ?……って、おーい」


黙る多田野に話しかける奏太だったが、多田野はというと聞こえていない様子で、表情一つ変えずに校舎を眺めており、何を考えているかは読み取れなかった。


「凛ちゃんせんせー、2人ともやる気になってくれないんだけどー」

「あ?……あー、そうだな。この試合に買ったら何か奢ってやんよ」


言葉を聞いた瞬間、霧島は目を輝かせて清水に詰め寄った。


「マジで!?」

「お前が食いついてどうすんだよ」

「えー、だってタダ飯食えるチャンスじゃん」

「ガキか!……いやガキだったなスマン」


頬を膨らませる霧島に清水が思わずツッコミを入れるが、残念ながら霧島はガキもガキ。何なら彼の言うところのクソガキ。

清水は素直に謝った。

霧島は無いプライドをズタズタにされ少し凹んだ。


「まあ、どうせ清水先生のことだし奢るって言っても飴玉1個とかでしょ?」

「……チッ、しょうがねぇな。好きなもん奢ってやるよ」


図星だったのだろう。逡巡の後に清水は舌打ちと共にそう言った。


「言いましたね?撤回とかしないですよね?」

「おー。まあ、勝ったらだがな。」


そう言って清水は格好つけるようにニヤリと笑ってみせた。

しかし。


「俺、焼肉がいい!」

「僕は回らない寿司」

「……ラーメン」

「1箇所に決まってんだろ馬鹿!」


__どうにも格好良くは決まらないようである。

清水はキレながらそう思う。




こうして、両者緊張もやる気も疎らなまま試合は開始されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青春は箒と雑巾でできているらしい ぴーたー @peter_setuna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ